そうした中で研究チームは、前翼膜があると肘関節を一定の範囲以上伸ばせないことから、動物の死後、堆積物中に埋まって化石として保存された場合でも、前翼膜を持つ動物では肘関節が一定の角度を超えない姿勢となるものと考察したという。

  • 前翼膜の有無による死後の肘関節角度の範囲の違い。前翼膜を持つ動物では、死後も肘関節が大きく開かずに堆積物中に埋没し、化石化する

    前翼膜の有無による死後の肘関節角度の範囲の違い。前翼膜を持つ動物では、死後も肘関節が大きく開かずに堆積物中に埋没し、化石化する(出所:東大Webサイト)

そこで今回の研究では、その検証を行うため、まず恐竜以外の爬虫類の化石と新生代の鳥類の化石に注目し、関節を保ったまま保存されている化石の画像から肘関節の角度を計測し、爬虫類と鳥類の比較を行うことにしたとする。なお、今回の研究で用いられた鳥類化石は、すべて現在の鳥類系統に含まれているため、確実に前翼膜を持っていた動物の化石の代表と見なすことができるとしている。

比較の結果、爬虫類化石と比べて鳥類化石では、肘関節角度が小さい範囲に収まって保存されていることが、統計学的に有意に確認された。具体的には、鳥類化石では肘関節角度が111.0度を超えることはなかったとする。つまり、肘関節が111.0度を超えた角度で化石として保存された動物は、前翼膜を備えていなかったと復元できるという。

続いて、恐竜と初期鳥類の化石を用いて肘関節の角度が計測された。計測データを系統図上で比較すると、鳥類に至る系統のうち、マニラプトル類では常に肘関節の角度が小さい範囲に収まる姿勢で化石化していることが明らかにされた。また、肘関節角度と前翼膜の有無の関係性を当てはめると、前翼膜を持たないような種はマニラプトル類の系統内にはいなかったと推定された。

さらに、例外的に軟組織の痕跡が保存されている、前翼膜のような構造を持つ恐竜の化石2例について、標本の再調査が行われた。その結果、前翼膜と同様に肩と手首の間に張っている軟組織が確認されたという。研究チームによると、これら2例はマニラプトル類に含まれる種であることから、常に肘関節の角度が小さい姿勢で化石化するマニラプトル類は前翼膜を持っており、それが鳥類に受け継がれた可能性が支持されるとしている。

  • 化石骨格の肘関節角度から推定した前翼膜の進化過程。カウディプテリクスとミクロラプトルについては、前翼膜が保存された化石も見つかっている

    化石骨格の肘関節角度から推定した前翼膜の進化過程。カウディプテリクスとミクロラプトルについては、前翼膜が保存された化石も見つかっている(出所:東大Webサイト)

研究チームは現在、祖先動物の前肢の形態がどのように変化して前翼膜が獲得されたのかに関して、現在の鳥類と爬虫類の胚発生を細胞・遺伝子レベルで比較する研究も進めているという。こうして化石を対象とする古生物学研究と発生学研究を融合することで、鳥類の身体構造の成立過程について、さらに解明が進むことが期待されるとしている。