BtoBビジネスが急拡大する時期に、課題になるのが既存顧客へのサポートだ。特にベンチャー企業の場合、サービスの成長が速すぎてサポートのマンパワーが不足するケースが多い。2014年に創業し、法人向けECプラットフォーム「ecforce」を提供するSUPER STUDIOも、まさに同様の課題を抱えていた。

そこで同社が取り組んだのが、オンラインユーザーコミュニティ「ecforce compass」の設立である。ecforceのユーザーが集うクローズドなコミュニティでは、運営からの最新情報の提供はもちろん、ユーザー同士での交流や、ノウハウ共有も行われる。結果、サポートの質が上がり、サービスに対するユーザーのエンゲージメントも向上する仕組みだ。

しかし、ただオンラインコミュニティを立ち上げただけで、全てが思い通りに進むわけではない。コミュニティに参加するユーザーをどう増やすのか。コミュニティ内の活動をどう活性化するのか。コミュニティが自走するまでには多くの困難があり、コミュニティマーケティング自体をあきらめてしまう企業も少なくない。

そんな中、ecforce compassは発足から1年足らずですでに400名以上の参加者数を突破。高いアクティブ率を誇るなど、盛り上がりを見せている。

成功のポイントはどこにあったのか。同社でecforce compassを率いるカスタマーマーケティングユニットの南雲祥江氏、齋藤裕貴氏に話を聞いた。

  • 南雲祥江氏、齋藤○○氏

    SUPER STUDIO 南雲祥江氏と齋藤裕貴氏

カスタマーサクセスの課題から生まれたユーザーコミュニティ

2020年から急速に広まった新型コロナウイルス感染症。その予防対策の一環として直接対面の回避が推奨され、あらゆるビジネスに影響を及ぼしたことは言うまでもない。特に、緊急事態宣言によって店舗営業できなくなった小売業者が一斉にオンラインに活路を求め、期せずしてEC業界は空前の拡大成長期に突入した。

そこで一気に注目を集めたのが、ECサイトを手軽に作成できるECプラットフォームだ。中でもSUPER STUDIOが提供する「ecforce」は、ECサイトに必要な基本機能はもちろん、マーケティング機能や広告管理・分析機能、CRM機能に至るまでオールインワインで備えたサービスとして、業種を問わず多くの企業から支持され急成長を遂げた。

業種を問わないということは、顧客によってECの活用法や成功へのノウハウが大きく異なることを意味する。SUPER STUDIOでは導入事例の紹介記事やFAQ、セミナー、オウンドメディアといったさまざまなチャネルでナレッジを共有してきたが、それでもなお導入企業の急激な増加により個別の問い合わせが多数寄せられ、カスタマーサクセスの人材採用・育成が追いつかないほどだったという。

このような状況を打破するために同社が取り組んだのがオンラインコミュニティ「ecforce compass」の設立だ。もともとフリーランスでコミュニティ運営などに携わっていた南雲氏と、デジタルマーケティングを専門としていた齋藤氏がSUPER STUDIOにジョインし、2022年3月に正式オープンを果たした。

「ecforce compassは、運営からさまざまなナレッジを共有したり、お客さまの声をキャッチアップしたり、お客さま同士が気軽に情報交換したりする場としてスタートしました」(南雲氏)

なぜ、参加者が集まらないのか

今でこそにぎわいを見せるecforce compassだが、最初から順風満帆とはいかなかった。南雲氏と齋藤氏は既存顧客に招待メールを送付し、カスタマーサクセスの担当者にecforce compassの紹介をしてもらえばある程度の参加者はすぐ集まると考えていたのだという。その思惑が、大きく外れたのだ。

「お客さまに招待メールをお送りしても、コミュニティって何をやっているかよくわからない、よくわからないから入らないという方が多く、なかなか人が集まりませんでした」(齋藤氏)

なぜ、人が集まらないのか。原因について議論を重ね、2人は1つの結論にたどり着いた。

「BtoBサービス全般に当てはまることですが、サービス提供側が持っているのは顧客との契約情報、つまり契約窓口の人の連絡先なんです。だから私たちも窓口担当者にコミュニティの招待メールを送っていました。しかし、ecforceについてのナレッジを本当に必要としており、コミュニティを魅力的に感じてくれるのはEC運営の実務を担当する方でしょう。私たちが連絡をとるべきなのは、その実務者の方だったのです」(南雲氏)

顧客企業の実務者と接する機会があるのは社内のセールスやカスタマーサクセス、カスタマーサポートの担当者だ。そこで2人はそれらの部署と連携し、顧客と会う機会があればecforce compassを紹介してほしいと依頼した。ときにはその担当者と一緒にミーティングに同席し、顧客に対して自らコミュニティのアピールを行うこともあったという。

「既存顧客とのあらゆるタッチポイントを洗い出し、お客さまに接触できる人にecforce compassの紹介をお願いしました。また、自分たちでもできることは何でもやりました」(南雲氏)

中でも、ecforceの管理画面を活用した告知は効果的だったという。ecforceの管理画面には、新機能のリリース情報やセミナー開催などを告知するための枠を設置することができる。社内で調整し、そこにコミュニティの情報を掲載してもらうことで、管理画面を閲覧するユーザー、すなわち実務者へのアプローチに成功した。

他にも、FAQの通知欄への情報掲載、プレスリリースの発信、ecforceを導入した際に送るオンボーディング完了メールへの記載、オンラインセミナーのアーカイブをecforce compassに残すことによる集客など、思いつく限りの施策を実行したことにより、ecforce compassの参加者は次第に増加していった。

「参加者が200人弱くらいまで増えると、セミナーもある程度困らず集客できるようになりました。他部署からコミュニティへの問い合わせも入るようになり、ecforce compassがだんだんコミュニケーションの場として機能し始めたなという手応えがありました」(齋藤氏)

月間アクティブ率50%を支える運営ノウハウ

2023年1月時点でecforce compassの参加者は430人に達しており、完全に軌道に乗った状態だ。オープン当初はコミュニティの理想値として月間アクティブ(ログイン)率30%、アクション率10%を置いていたが、今ではアクティブ率は約50%、アクション率は約20%に達しているという。

これだけの盛り上がりを維持している背景には、南雲氏と齋藤氏によるきめ細やかなサポートがある。

「どんな投稿をすればいいかわからない人のために、私たち運営サイドも積極的に投稿しています。また、お客さまが投稿したら運営側で必ず最速でコメントし、その情報に詳しい社員やお客さまがいらっしゃるならメンションを付けて話を振るなど、投稿や交流が起きやすい環境づくりを心がけています」(齋藤氏)

運営サイドによるハンドリングはありつつも、ecforce compassはすでに自走を始めており、カスタマーサクセスのマンパワー不足を補うという当初の目的は達成できているように思える。

しかし、南雲氏は「まだやるべきことはたくさんある」と言う。

「参加者がもっと増えてくると、アクティブ率やアクション率を維持するのはどんどん難しくなります。フェーズによってコンテンツの設計や出し方、見せ方も変えていかなければなりません」(南雲氏)

齋藤氏も「毎回壁にぶち当たっている」と苦笑する。まだ「コミュニティは良いもの」だと思ってもらえていない層にどうアプローチしていくかは、常に課題だ。また、南雲氏も言うように、一対多で情報を提供するコミュニティとしては、参加者が増えるほど、いつどんなコンテンツを打ち出していくかが難しくなる。これについては今後、どういう層の顧客がどのくらい参加しているのか、どんな情報が求められているのかといったデータを整備・分析しながら取り組んでいくという。

今後について、南雲氏は「今自分たちがこうしたいと思っていることや、やっていることが最適解かどうかはわからない」と語る。だからこそ、状況に合わせて何度もロードマップを引き直す必要性はあるが、揺るがないのは「ecforce compassが時を経ても“進化し続けるコミュニティ”であること」だと笑顔を見せる。同氏が思い描く“進化し続けるコミュニティ”、それはアクティブ率やアクション率が高いだけでなく、顧客と自社の利益が確実に担保されているコミュニティのことだ。

齋藤氏も「コミュニティの規模が大きくなると、今の水準でアクティブ率やアクション率を維持するには、維持だけでなく上げるための施策も実施していかなければいけないと思っている」と力を込める。

「ecforce compassが盛り上がらないとカスタマーマーケティングとして説得力がありませんし、コミュニティをベースにすることで既存顧客への全体最適も図っていけると考えています。コミュニティを盛り上げた上で顧客に成功体験を提供していくというのが、中長期的な目標になっていくと思います」(齋藤氏)

手探りでのスタートから1年。2022年12月にはコミュニティの活性による成果や、成果につながるような取り組みを表彰するイベント「第2回commmune AWARD」にてコミュニティマネージャー部門を受賞するなど、ecforce compassはコミュニティマーケティングの成功事例として語られるまでになった。

「今できることは何でもやる」と決めた運営担当者の覚悟によって、短期間で成長したecforce compass。人が増え、トレンドが変わっても“進化し続けるコミュニティ”であり続けるために、これからも試行錯誤は続くだろう。ecforce compassが次のステージでどんな進化を見せてくれるのか、期待したい。