“顧客が顧客を開拓する”手法として近年、注目を集める「コミュニティマーケティング」。共通の関心を持つユーザー同士の結び付きから得られる宣伝効果に加え、既存顧客の満足度向上も期待できることから、コミュニティづくりに奔走する企業も多いだろう。とは言え、ユーザー同士が盛り上がり、マーケティングにつながるようなコミュニティはそう簡単に出来上がるものではない。

このコミュニティマーケティングに真摯に取り組み、短期間で大きな成果を挙げているのがLegalForce社だ。同社では2020年12月から、主に契約審査プラットフォーム「LegalForce(リーガルフォース)」のユーザーを対象にしたユーザー会を立ち上げた。

“正解”がわからない中、さまざまな企画・施策を展開した結果、参加者数は1年半で約3倍に増加。並行して2021年にはユーザー限定のオンライン・コミュニティ「LegalForce Forum」も開設し、確かな手応えを感じているという。

手探りで始まったユーザー会はどのようなトライアンドエラーを経て成長してきたのか。具体的な取り組みやKPIの考え方などについて、マーケティング部デマンドジェネレーション課にて、コミュニティマーケティングを担当する江畑夏海氏と岩田佳央梨氏に話を聞いた。

  • 江畑夏海氏、岩田佳央梨氏

    (左から)LegalForce マーケティング部デマンドジェネレーション課 カスタマーマーケティング係 江畑夏海氏、岩田佳央梨氏

オンラインでスタートしたユーザー会の試行錯誤

LegalForceは、自然言語処理などの技術により、契約書をアップロードするだけで条文の抜け漏れや条項内の過不足を瞬時に提示する契約審査プラットフォームだ。多大な労力と時間を要する契約書のレビューや修正業務を効率化でき、より高度な業務に時間を割くことが可能となることから、そのユーザー層には企業の法務担当者だけでなく弁護士なども含まれる。

2019年4月の正式版リリース以来、順調にユーザー数を伸ばしてきたLegalForceが、今注力しているマーケティング施策の1つがコミュニティマーケティングである。

「これまでにもユーザー会のような施策がゼロだったわけではありません。ただ、マーケティング部自体が今ほど大きくなかったこともあり、なかなか本格的なコミュニティマーケティングに踏み出せていませんでした」と江畑氏は話す。

2020年10月に入社した江畑氏は、ユーザー会の実施にあたり、まずLegalForceのユーザーに声を掛け、「(ユーザー会として)どんな場が欲しいか」「普段、周囲に相談できなくて困っていることはないか」といったヒアリングを実施。その結果を基に同年12月、50名規模のユーザー会をオンラインにて開催した。それ以前にも1、2度、当時の担当者が同様のイベントを行ったことはあったというが、規模感や戦略性などを考えると、実質このときがLegalForceにとって初のユーザー会だと言えるだろう。

初回のイベントには、ユーザー企業3社が登壇し、自社におけるLegalForceの具体的な活用方法について説明。質疑応答の後、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使ってグループに分かれ、ユーザー同士の交流を図ったという。

「LegalForceの活用方法については、当社からも発信はしています。ただ、『同じユーザーの立場の方から、直接活用方法を聞いてみたい』という声は以前からいただいていました」(江畑氏)

法務担当者は、企業規模によっては「社内に1人しかいない」「総務などの他職種と兼任している」といったケースも多い。つまり、社内で気軽に相談できる相手がいないのだ。エンジニアやマーケティング、人事といった職種ならば、会社の垣根を超えた勉強会や交流会が頻繁に行われている。だが、法務担当者が集まる場は実はそれほど多くない。その一因は、業務の特性上、外部に出せない情報を扱うことが多いため、集まっても深い話ができないことにある。

LegalForceのユーザー会は、LegalForceという共通のソリューションを介して話ができるのはもちろん、参加者はLegalForceのユーザーのみに限定されたクローズドな環境で行われる。そのため、「ある程度、安心して交流できる」(江畑氏)というわけだ。

盛り上がるイベントにするには? - テーマ選定の難しさ

また、ユーザー会で扱うテーマは必ずしもLegalForceの話題に限らないと言う。

「ユーザー会の一番の狙いは、LegalForceユーザーの“熱量”を外に伝えていくことですが、法務担当者のつながりを作って業界全体を盛り上げていくことも目的の一つです。ですから、テーマもユーザーアンケートを基に柔軟に決めています」(江畑氏)

例えば、「法律のプロならば、より厳しい目線でLegalForceを使っているのではないか」という声を受け、法律事務所から弁護士に登壇してもらったり、「皆がどうやって情報収集しているのか知りたい」という要望を基に、法務担当者がお薦めの本を紹介し合う会を企画したりといった具合だ。

ただし、需要のあるテーマで開催してもうまくいくとは限らない。江畑氏が「苦戦した」と振り返るのは、株主総会の運営について情報交換する会を座談会形式で実施したときのこと。「知りたい」という強いニーズはあったのだが、経験を話せる人が圧倒的に少なく、話が広がらなかったのだ。以降はこの反省を踏まえ、特定のテーマがある場合はライトニングトークのように話せる人を決めておき、その上で悩みを共有するスタイルを取り入れた。

一方、同じ情報交換という形式でも参加者の満足度が高かったのは、若手法務担当者だけを集めた座談会である。参加者を「法務を担当して3年目までの人」に限定し、ブレイクアウトルームに分かれて仕事のコツや悩みを共有。わかることはお互いにアドバイスするといったカジュアルな相談の場となった。

「若手担当者の場合、いきなり部長級のベテランに相談するのはハードルが高いですが、同じくらいの経験値の人なら話しやすいというのはあると思います。非常に好評だったので、2カ月後には第2弾を開催しました」(江畑氏)

こうした試行錯誤を繰り返しながら、江畑氏らは月に2~3回というハイペースでイベントを開催。参加者数は着実に増え、スタートから1年半が経つ頃には200名以上が参加するユーザー会も開催できるまでになったという。

走り続ける中で見えてきた“本質的なKPI”

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