産業技術総合研究所(産総研)と東京都立大学(都立大)は2月10日、「三テルル化二アンチモン(Sb2Te3)」/「二硫化モリブデン(MoS2)」のファンデルワールス界面の作製に成功し、「n型MoS2トランジスタ」の性能向上に貢献する接触界面抵抗の低減(低コンタクト抵抗)技術を開発したことを発表した。
同成果は、産総研 デバイス技術研究部門の張文馨主任研究員、同・畑山祥吾 特別研究員、同・齊藤雄太研究グループ付、同・岡田直也主任研究員、同・入沢寿史研究グループ付、都立大の宮田耕充准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、材料科学や電子および磁性材料の工学などを扱う学術誌「Advanced Electronic Materials」に掲載された。
日本の国策半導体会社Rapidusが量産を目指す2nmプロセスの先となるBeyond 2nmを実現する技術として、「遷移金属ダイカルコゲナイド」(TMDC)のトランジスタへの導入が期待されている。
TMDCは、適度なバンドギャップを保ちつつ化学的に安定な層状構造を有し、原子層厚においてシリコンよりも優れた半導体特性を示す2次元結晶構造を持つ物質として知られているためだが、そうした2次元材料トランジスタの実用化には、技術的に克服すべき課題がまだ多く残されているのが現状である。そこで研究チームは今回、代表的なTMDCの1つであるMoS2を用いたトランジスタを作製し、そのコンタクト材料としてSb2Te3に着目することにしたという。
Sb2Te3は、多数の原子が層状になっており、層同士はファンデルワールス力で弱く結合している物質で、ビスマス(Bi)やアンチモン(Sb)のように0.2~0.3eVという狭いバンドギャップを有し、半金属に似た特性を示すほか、融点は約620℃と、Biなどと比べて高いことも知られている。これらの特徴は、同物質がMoS2との間にファンデルワールス界面を形成し、フェルミ準位のピンニング現象を抑制する可能性があることを示唆するものだという。このことから研究チームは、同物質を利用することで、高い耐熱性を維持したまま低コンタクト抵抗を実現できることを考察したとする。