理論分析の結果、放流は群集内の種間競争を激化させ、放流対象種以外の種を排除する効果を持つことが、ほとんどのシナリオにおいて示されたという。また、過度な放流が行われると種内競争が激化し、放流対象種の自然繁殖による増加が抑制されることも判明。放流が放流対象種の増加に寄与するのは、環境収容力が十分大きく、種内競争が弱い場合のみだったとした。

そして、上述した複合的な影響の帰結として、放流によって魚類群集全体の密度・種数は長期的に低下することが予測されたとする。なお、この理論的予測は実証分析からも支持されたという。すなわち、サクラマスの放流が大規模に行われている河川ほど、サクラマスとそのほかの魚種の密度が低下し、結果的に魚類群集全体の密度と種数が低下することが確かめられたのである。そして、これらの群集レベルで生じる放流の影響は、種内・種間競争の激化によって生じていることが推定されたとする。

  • (A)放流数が魚類群集の種数と平均密度に及ぼす影響。シミュレーションによる結果。(B)実証データに対する統計モデルによる結果

    (A)放流数が魚類群集の種数と平均密度に及ぼす影響。シミュレーションによる結果。(B)実証データに対する統計モデルによる結果(出所:北大プレスリリースPDF)

今回の研究により、放流によって対象種が増加するのは容量の大きな環境が整っている時に限られ、過剰に放流しても放流対象種は増えず、むしろ魚類群集全体の長期的な衰退につながる恐れがあることが明らかにされた。このことは、放流への過度な依存が、将来的には生物多様性と我々が享受する生態系サービスの著しい損失を招くことを意味するという。そのため、持続可能な資源管理や生物多様性保全には、河川などの生息環境の改善や復元といった抜本的対策が第一に必要であると考えられるとした。

今後は、産卵遡上を阻害することで野生サケマス資源の減少に大きな影響を与えたとされるダムなどの工作物について、スリット化(部分撤去)や魚道の設置を行い、本来の産卵域へのアクセスを回復させる取り組みが急がれるとする。また、河川改修により失われた稚幼魚の成育に適した環境(瀬や淵、多様な水際環境)の復元によって環境収容力の向上を図ることで、野生サケマス資源の回復を進める必要があるという。

研究チームは、これらの取り組みにより、持続可能かつ資源回復に効果的なサケマスの資源増殖・管理手法の構築が進められると同時に、生物多様性の回復と、我々が享受する生態系サービスの向上の実現が期待されるとした。