海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2月1日、海洋短波(HF)レーダー観測を利用した津波のデータ同化手法を開発するとともに、2022年1月15日に発生したトンガの大規模火山噴火による津波を事例として、今回の手法が沿岸の津波予測に有効であることを実証したと発表した。
同成果は、JAMSTEC 海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センターの王宇晨Young Research Fellowらの研究チームによるもの。詳細は、地球科学に関する幅広い分野を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に掲載された。
データ同化を利用した津波予測技術は、沖合の観測から得られる津波の振る舞いの観測値(流向、流速、波高等)を直接利用して数値シミュレーションと組み合わせることにより、観測網近傍の津波そのものの精緻な状況を推定し、それを新しい初期条件としてモデルにフィードバックしながらさらにシミュレーションを行うという手法で、地震観測に基づいた津波予測方法と異なり、波源情報を必要としない点が特徴とされている。
同手法に関する研究は、これまでDONETやS-netなどのリアルタイム沖合海底圧力観測網(沖合観測網)の利用を前提とした津波振幅に関する検討にとどまっていた。しかし、面的に得られるシグナル情報ならば、たとえば表面流速などのほかの観測値でも応用が可能だとされてきた。しかも、HFレーダーは沿岸から沖合までの表面流速を面的に観測することが可能なことから、観測値のデータ同化による津波予測への活用が期待されていた。そこで研究チームは今回、トンガの大規模火山噴火により発生した津波を対象として、その応用を試みることにしたという。
具体的には、HFレーダーの有効性の確認のため、日本時間2022年1月15日18~24時の間で、沖合観測網(S-net)とHFレーダーのそれぞれの観測値がデータ同化に利用された。24時以降は、それぞれから得られた波動場を初期条件とした津波シミュレーションによる予測が行われ、下北および函館における験潮所の観測値が精度検証に利用された。