東京大学(東大)、九州大学(九大)、NECの3者は4月14日、東京湾アクアライン海底トンネル内部に一部が設置された「海底ミュオグラフィセンサーアレイ」(HKMSDD)の「東京湾海底HKMSDD」(TS-HKMSDD)を用いた連続ミュオグラフィ観測により、2021年の台風16号通過に伴う、同湾における大気擾乱による「気象津波」の観測に成功したと発表した。

同成果は、東大 国際ミュオグラフィ連携研究機構(IMRO)機構長の田中宏幸教授をはじめとする、東大 生産技術研究所、東大 大気海洋研究所、東大大学院 新領域創成科学研究科、九大、NEC、英・シェフィールド大学、英・ダラム大学、英国科学技術施設会議ボルビー地下実験施設、イタリア原子核物理学研究所、伊・サレルノ大学、伊・カターニャ大学、ハンガリー・ウィグナー物理学研究センター、チリ・アタカマ大学、フィンランド・オウル大学ケルット・サーラシティ研究所の約30名の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

ミュオン(ミュー粒子とも呼ばれる)は、超新星爆発などによって誕生した高エネルギーの宇宙放射線が地球の大気圏に飛び込み、大気中の原子と衝突することで生じる二次的な素粒子として知られる。電子と同じ荷電レプトン(軽粒子)の第二世代で、電子と比べると非常に質量が大きい。レプトンの仲間であるニュートリノに近く、物質に対する透過力が強いことが特徴で、ヒトの身体も普通に貫通することができる。

ミュオグラフィとは、岩盤で1km以上というそのミュオンの強い透過力を利用するレントゲン写真撮影法であり、エジプトやマヤなどの巨大遺跡の内部構造を調べたり、山体のマグマなどを透視したり、地震の活断層の調査などで活用されるようになっている。

そして2021年3月に稼働を開始したTS-HKMSDDも、東京湾の海水と海底の岩盤を貫通してきたミュオンを捉えている。このミュオンの到達数を時間ごとにカウントすることで、海水の厚み、つまり海水準の変動を測定することが可能となるという仕組みであり、今回の研究では、2021年の台風16号通過に伴う、ミュオグラフィ観測を用いた東京湾の気象津波の分析が試みられ、それが成功したことが発表された。

  • 東京湾アクアラインの画像と断面図、およびTS-HKMSDDの位置

    東京湾アクアラインの画像と断面図、およびTS-HKMSDDの位置。断面図のMuと示されている地点が、TS-HKMSDDの一部が設置された場所 (c) 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix(出所:東大IMRO Webサイト)

気象津波とはメテオ津波とも呼ばれ、まだそのメカニズムが完全解明されたわけではないが、大気かく乱が原因とされる。これまでの研究によれば、津波の伝搬速度と大気擾乱に伴うパルスの移動速度が一致するときに大気のエネルギーが効果的に海水に与えられ、振動が励起されることが示唆されている。その振動周期は数分から数時間まで幅が広いことが特徴で、東京湾などのように半分閉じた湾や完全に閉じた湖などで発生することが多いとされるが、英仏海峡など、海の狭窄部でもその発生が報告されている。