具体的には、水素キャリアとしてゲルマニウム水素化物の一種である「Ph2GeH2(Ph=C6H5)」を使った水素発生反応を、貴金属フリーで達成すべく触媒開発が行われた。その結果、N-ヘテロ環カルベンの一種である「iPrIMMe」の共存下、鉄化合物として「[Fe(mesityl)2]2(mesityl=2,4,6-Me3-C6H2)」を触媒として活用することで、常温下においてPh2GeH2からの水素ガス生成が可能となることが見出されたという。

また、同反応では定量的に水素ガス発生が進行しており、反応後には水素キャリアであるPh2GeH2は、環状化合物である「(GePh2)5」に定量的に変換されていることが明らかにされたほか、ほかのゲルマニウム水素化物や、ケイ素もしくはスズ水素化物からの水素発生も、同様の鉄触媒により温和な条件下で可能だったとする。

さらに、(GePh2)5に対する水素付加反応の開発が行われたところ、水素発生時と同様に「[Fe(mesityl)2]2/iPrIMMe」を触媒として用いることで、1気圧の水素圧下において0℃で水素付加が進行し、Ph2GeH2が再生することが見出されたほか、ほかの反応経路として、(GePh2)5に対し「PhICl2」を作用させPh2GeCl2へと変換した後、「LiAlH4」と反応させることでもPh2GeH2の再生が可能であることも確認されたという。

加えて、[Fe(mesityl)2]2と各種反応剤との反応が詳細に検討されたところ、Ph2GeH2からの触媒的な水素発生が進行していることが判明。同反応では、[Fe(mesityl)2]2が4当量のiPrIMMeと反応し、単核鉄錯体「trans-(iPrIMMe)2Fe(mesityl)2」(鉄錯体)を与え、その後、Ph2GeH2との段階的な反応が進行し、3種類の鉄錯体を中間生成物として経由しながら水素発生反応が進行するという流れであることが確認されたとする。

  • 鉄触媒で作動しゲルマニウム水素化物を水素キャリアとする水素発生・貯蔵法

    (左上)鉄触媒で作動しゲルマニウム水素化物を水素キャリアとする水素発生・貯蔵法。(右上)Ph2GeH2からの水素生成における推定反応機構。(下) Ph2GeH2からの水素発生における中間生成物の3種類の鉄錯体の分子構造。(a)最初の中間生成物の鉄錯体。(b)2番目の鉄錯体。(c)3番目の鉄錯体 (出所:東大 生研Webサイト)

なお、研究チームでは、ゲルマニウム化合物やケイ素化合物の多くは、生体および環境に対して低毒性であることから、安全性も高い手法だとしており、今後は、より多量の水素を発生・貯蔵可能な水素キャリアの開発や、より低コストな水素キャリアの開発を行う予定としている。