筑波大学オープンイノベーション国際戦略機構(OISO)は、1月20日に東京都中央区内で「筑波大学オープンイノベーションシンポジウム」(図1)を開催した。
このシンポジウムの中で、京セラはお昼休みなどに短時間の“昼寝”を効果的にする仮眠起床AIシステム「sNAPout」(商品名)を開発していると、その研究開発の進み具合いなどを報告した。
シンポジウムに登壇した京セラ研究開発本部デバイス研究開発統括部の渡辺孝浩氏(図2)は「当社のメディカル事業は、これまではセラミックス応用製品として人工関節や歯のインプラント材などを開発し販売するなどの医療系事業を進めてきたが、最近はソフトウェアと組み合わせた製品開発にも力を入れている」と説明し、その一環として「人間の眼に優しい照明機器などの人間工学応用などと、従来のハードウェアにソフトウェアを組み合わせた医療系製品開発まで対象範囲を広げている」と続けた。
そのソフトウェアと組み合わせた医療系製品開発として、現在力を入れているのは「仮眠起床AIシステム『sNAPout』という昼寝を効率的に行う促進システム製品だ」と解説した。日本人は相対的に睡眠時間が少ないために「昼休みなどの休憩時間内に効率的な昼寝を可能にできれば、これを補えるという潜在的なニーズが高まっている」と、市場ニーズ分析の背景を説明した。
人間の睡眠を調べると「人間の睡眠の1サイクルは約90分で、入眠後に睡眠段階2を経て“徐波睡眠”と呼ばれる深い睡眠に入る。睡眠は、睡眠段階1から3に進むごとに深くなり、睡眠段階3が深い睡眠状態になる。先行研究から、この睡眠段階3の時に仮眠から目覚めると睡眠慣性状態(眠りから目覚めた後も睡眠が続いているような状態)になって、作業効率低下を招いてしまう。これに対して、睡眠段階3に入る前に目覚めることができれば、最も脳がリフレッシュした状態で起きることができる(図3)。つまり、一般の日本人にとって“最適”仮眠”は、自分の睡眠段階を正しく、リアルタイムに推定して、睡眠慣性が生じないように目覚めることが重要になる」と解説する。
これを実現する「仮眠起床AIシステム」は「仮眠から起きるタイミングの最適化と入眠までの時間短縮を実現するため、サッと寝られて、スキッと起きられる仮眠起床AIシステム『sNAPout』という製品として、現在開発中」と説明した。「『sNAPout』はレーザードップラー式血流量センサー、仮眠起床AIモデル、入眠音という3要素で構成されている」という。レーザードップラー式血流量センサーは、「セラミック・パッケージング技術を利用して開発した小型のウェアラブルデバイス用光学式バイタルセンサーであり、このセンサーをイヤホン型デバイスに組み込も、耳に装着してからその対象者の血流量を測る仕組みになっている」と説明する。
筑波大国際統合睡眠医科学研究機構の担当研究者は「この昼寝時に測った耳での血流量の値から睡眠段階を測定できるようになったので、この睡眠段階の測定・推定作業から睡眠段階と結び付けて学習したAIモデルを確立し、製品化できた」と経緯を解説する。
京セラは、血流量センサーを組み込んだ試作品の無線イヤホンデバイスと仮眠起床AIと入眠音を組み込んだスマートフォン組み込みの専用アプリケーションを開発し、「実際に想定ユーザー試験者に利用してもらうマーケティング調査を実施中」という。
京セラは「仮眠起床AIシステム」の要素部品・システムを販売し、「これをイヤホンなどのハードウェアとスマートフォン組み込みの専用アプリケーションを組み合わせた製品として、電機メーカーなどが販売する事業化モデルでの事業形態を考えている」と説明する。