総合建設大手の清水建設が、現場のデジタル化を進めている。その一環として、現場での安全管理業務のデジタル化を、オラクルのクラウドプラットフォーム「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」上に構築。わずか1カ月でプロトタイプを開発し、展開に漕ぎ着けた。
デジタルの取り組みを進めるのは、同社土木技術本部 イノベーション推進部の柳川正和氏だ。同社のプロジェクトスピード展開の背景には、柳川氏が受けたある「ショック」がある。
「紙が一枚もない」 - 北欧で受けた衝撃
清水建設は現在、2021年7月策定の中期デジタル戦略2020「Shimzデジタルゼネコン」の下で「ものづくりを支えるデジタル」として、デジタル化、さらにはDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。
柳川氏が所属する土木技術本部イノベーション推進部は25人体制、3次元モデルを建設・土木のプロセスに導入するBIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)も含む。現在は土木部門の開発、生産性の向上推進にフォーカスしているが、将来的には建築部門と技術やデータの共有を進めていく方向性を描いている。
デジタル化の推進は、新型コロナウイルスの感染が拡大する前にBIM/CIM分野の調査を行うために、北米や北欧のイベントに行ったことがきっかけだ。「衝撃でしたね。海外の取り組みの事例を見ると、われわれは遅れていると痛感しました」と柳川氏。
特に、フィンランドで見せてもらった現場では、「紙が一枚もない。誰かがドキュメントを作ったら電子ワークフローで上司に承認をあげ、上司が承認するとそれが完成版となり、全員が共有している。帰国して当社の現場に行くと、書類の山」と振り返る。「フィンランドではデジタル化が進んでおり、さらに、デジタル化に対するマインドが全然違いました」(柳川氏)
データドリブンにつなげるために、帳票のデジタル化に着手
真剣にデジタル化に取り組まなければという思いから、柳川氏は2030年までに目指したい姿を自ら作り、会社に提出した。その結果、まずは、業務を「デジタル化していく」「可視化していく」という部分について同意をもらった。
建設業は、発注者から仕事を受注し、正しく高品質のものを作り、納めることをミッションとしている。これまで、業務の正確性や品質の証明は紙をベースとして行われてきた。
柳川氏は「紙の帳票からデータへ、それを二次利用、三次利用して効率化すれば、データドリブンにつながるだろう」と考え、日本オラクルに声をかけた。その理由は、データの取り扱いといえば、企業で幅広く使われているデータベースを提供している同社が一番だろうと考えたからだ。
システムや業務効率化のための事前調査においては、ベンダーとの付き合いで忖度が入ったりなれ合いになったりすることを避けるために、オラクル、コンサルティング企業、清水建設の3社によるコンソーシアムの形をとった。
デジタル化は現場が実感できる領域から
デジタル化を進めるにあたって、柳川氏は業務の調査と仲間集めからスタートした。
オラクルに社内の業務調査を頼んだところ、社内で150ものシステムが動いていることが判明した。その中には柳川氏が知らないシステムもあり、「連携が十分ではなかった」と、同氏は当時のショックを語る。
一方で、現場のスタッフは日々の仕事に追われている。「2030年に向けて……」という話をしても、なかなか理解は得られない。そこで、現場の人が便利になったと実感してもらえて、かつ、開発側からするとデータを取得して活用できるようになる業務はどこか、ヒアリングしながら探した。そこで行き着いたのが、安全管理業務だ。
「安全管理はどの現場でも生じる業務で、デジタル化を幅広く展開できる」――そのような考えの下、特別安全衛生協議会のペーパーレス化を進めることにした。
同協議会は建設現場で協力会社が作業間連絡調整などの情報を共有したり、災害の未然防止を目的に開催したりするもので、数百社が参加することもある。それまでは、協議会の開催招集や出欠確認、報告書の承認といった一連の業務はメールとファクスを使い、書類は紙で配布。デジタル化にあたって業務フローを整理し、PCやスマートフォンのアプリより入力できるようにした。