東京大学(東大)と新潟大学(新大)の両者は12月24日、赤外線衛星「あかり」が取得した若い大質量星の周りの近赤外線分光スペクトルを詳細に解析した結果、生物の存在において重要なアミノ酸を低温環境下で構成する初期段階の分子であり、窒素を含む「シアネートイオン」と考えられる物質の存在量が、紫外線強度とよく相関していることを明らかにしたと共同で発表した。

また、その存在量が星の生成の歴史を紐解く指標として重要な役割を果たすと考えられている重水素が、星間空間に豊富に存在する「多環式芳香族炭化水素」(PAH)を含む有機物に取り込まれていることを示す証拠を初めて取得し、有機物が重水素の"隠れ家"である可能性を明確に示したことも併せて発表された。

同成果は、東大大学院 理学系研究科の尾中敬名誉教授(明星大学 理工学部 総合理工学科常勤教授兼任)、同・左近樹助教、新大 自然科学系(理学部・大学院自然科学研究科)の下西隆准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

アミノ酸は小惑星リュウグウの試料からも検出されており、宇宙の低温領域、太陽系では外縁部で生成されたと考えられている。アミノ酸は、窒素などの元素が結合して単純な分子から複雑な分子へと徐々に成長して誕生したとされており、その初期段階の分子がシアネートイオンである。同分子については、赤外線の吸収スペクトルから、氷の状態で宇宙に存在していることが確認済みだ。

アミノ酸までの成長過程については当初、紫外線が関与しているとされ、そのことから大質量星付近にだけに存在するものとされていた。しかしその後、紫外線を伴わない反応でも効率的に生成される過程も示されたことから、どのような生成過程が寄与しているのか答えは出ていない。

一方の重水素は、ビッグバン直後に生成された後、恒星内部の核融合で徐々に減少していく。ところが、これまでの紫外線による観測では、星間空間において予想を下回る量の重水素ガスしか検出されていなかった。このことから、未検出の重水素の隠れ家である可能性の1つとして、PAHの水素が低温化により重水素に置換されていることが予想されていた。

しかし、これまでの星生成領域などでの比較的温度が高い領域の観測では、波長4.4μm付近に存在する重水素と芳香族の炭素結合の振動モードの検出例は少なく、重水素が宇宙空間のどこに潜んでいるのかは不明のままだったという。そこで研究チームは今回、赤外線衛星のあかりが観測した、銀河中心方向に位置する若い大質量星「AFGL 2006」の近赤外線スペクトルを詳細に解析したとする。

  • AFGL 2006の赤外線(3.6~5.8μm)の擬似カラー画像。NASA/IPACデータベースより取得したデータから合成された画像。水色の長方形が「あかり」でスペクトルが取得された領域

    AFGL 2006の赤外線(3.6~5.8μm)の擬似カラー画像。NASA/IPACデータベースより取得したデータから合成された画像。水色の長方形が「あかり」でスペクトルが取得された領域(出所:新大プレスリリースPDF)