宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月20日、超小型探査機「OMOTENASHI」で発生した異常について、調査結果を報告した。得られた様々なデータを分析した結果、JAXAはガスジェット推進装置のスラスタバルブに異常が発生したと判断。ここから液体の推進剤が噴射されたことで、約80°/sという異常回転を引き起こしたことを突き止めた。
空白の30分間に何が起きたのか?
OMOTENASHIは米国の超大型ロケット「SLS」(Space Launch System)初号機に搭載され、11月16日15:47(日本時間)に打ち上げられた。その後、ロケットからは19:30頃に分離したと推定されているが、通信が可能になったときに異常な高速回転の状態で見つかっており、通信確立までの30分ほどの間に何が起きたのか、究明が進められていた。
OMOTENASHIの太陽電池パネルは+Y面にしか貼られていないため、分離後はまず、姿勢を制御し、これを太陽側に向けるのが生存戦略の基本となる。OMOTENASHIは分離の30秒後に電源がオンになり、この太陽捕捉制御まで自動で実行するはずだった。
姿勢を制御するための装置として、OMOTENASHIにはリアクションホイールとガスジェット推進系が搭載されている。ガスジェットは米Vacco製のユニットを2台搭載。各ユニットには4基のスラスタが付いていて、噴射するペアの組み合わせを変えることで、3軸姿勢制御と軌道制御を行うことができる。
探査機が分離時に受ける外乱は、最大10°/s程度であることが分かっていた。最初にこの回転を抑える必要があるが、OMOTENASHIは搭載スペースの制約が厳しく、小型のリアクションホイールしか搭載できなかった。10°/sの回転を抑える能力は無く、そのときはまずガスジェットで回転を遅くする手順になっていた(レートダンプ制御)。
通信確立時、探査機にはこのレートダンプ制御が起動し、終了した記録が残っていた。本来であれば、姿勢制御はリアクションホイールに引き継がれ、Y軸周りに0.5°/sというゆっくりした回転でスピン安定が維持されているはずだったが、実際に発見されたときには約80°/sという異常な高速回転になっており、しかも太陽とは逆向きだった。
今回、JAXAからは、テレメトリ受信時の画面が初めて公開された。スラスタの噴射時間はA1とA3が6秒台と長く、このことから、分離時の外乱はX軸周りの回転が支配的であったことが分かる。この噴射時間は、10°/s程度の回転を抑える量だったとのことで、レートダンプ制御の結果として矛盾は無い。
回転が再び加速を始めた理由は?
レートダンプ制御が正常に機能し、分離時に受けた回転が収まったのだとすると、その後、なぜ再び回転が早くなったのか。その謎を解く鍵は、後日、NASAから提供された受信強度データの中にあった。
この受信強度は大きく振動しているが、OMOTENASHIの起動直後に大きかった振幅が1分くらいで収まり、そのさらに1分後から、再び大きくなっていることが分かる。JAXAが注目したのは、この振動の周期。5分ほどをかけ、13回転/分(=78°/s)ほどまで周期が早くなっており、これはOMOTENASHIの回転速度とほぼ一致する。
受信強度の変動は、探査機の姿勢の変化によってもたらされたものと推測される。このデータから分かるのは、探査機は実際に一度レートダンプ制御によって回転が抑えられ、そこから5分間、加速が続いたらしい、ということだ。
JAXAのOMOTENASHI運用異常対策チームは、この現象について、FTA(故障の木解析)を実施。当初、ほかの探査機等との衝突による外乱も疑われていたが、加速が5分間も続いていたことから、この可能性は排除。残る要因として、ガスジェットスラスタの異常に絞ることができた。
次に、この異常がどうして発生したのかということについて、さらに詳細に分析。スラスタからガスが漏れただけでは、この短時間でこれほど早く回転させることはできないものの、推進剤が液体のまま噴出したと考えると、推力が増大するため、全ての事象が説明できることが分かり、これが原因と結論付けた。