慶應義塾大学(慶大)、愛知県医療療育総合センター 発達障害研究所(発達障害研究所)、生理学研究所(生理研)は12月6日、脳を構成する主要細胞成分の1つである「アストロサイト」が、胎児や新生児の脳内でどのように移動して持ち場につくのかを、マウスを用いて明らかにしたことを発表した。
同成果は、慶大 医学部解剖学教室の仲嶋一範教授、発達障害研究所 分子病態研究部の田畑秀典室長(研究開始時は慶大 医学部解剖学教室専任講師)、生理研の鍋倉淳一所長らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
アストロサイトのもとになるアストロサイト前駆細胞は、脳深部において、神経細胞の主な産生時期が終了した後の神経幹細胞から生み出される。その後は脳表面側へと移動し、ネットワークを形成中の神経細胞に合流する。このとき、アストロサイトは神経細胞に働きかけ、神経細胞同士の接点であるシナプスの形成促進といった役割を担う。
つまり、アストロサイトが正しく移動して配置されることが、適切な神経ネットワークの形成には重要ということだ。さらに、それが乱されることで、さまざまな精神神経疾患の背景となる病態が引き起こされる可能性があるという。しかし、アストロサイト前駆細胞の発生過程を追跡することは技術的に困難だったという。
今回研究チームは、マウス胎児の神経幹細胞に蛍光タンパク質を発現する遺伝子を導入し、そこから発生する子孫細胞の挙動を顕微鏡下において観察してきた。そうした観察において、ある細胞集団は、これまで神経細胞で知られているような秩序だった移動ではなく、ランダムに見える動きを示すことを見出し、「不軌道性移動」と命名したという。また、このような移動を示す細胞を特殊な方法でラベルして培養したところ、これらはアストロサイトに分化することが確認された。
また、不軌道性移動を行う細胞に発現するマーカー遺伝子「Olig2」が見出されたことから、同遺伝子の発現により細胞が光るマウスを作成した上で、細胞系譜解析が行われた。すると、これらもアストロサイトに分化したという。これらのことから、不軌道性移動を示す細胞はアストロサイト前駆細胞であることが確認された。
加えて研究チームは、不軌道性移動を示すアストロサイト前駆細胞が、胎児期の特定の時期にのみ産生されて、最終的に大脳皮質の表側の灰白質のアストロサイトに分化することがわかった。一方で、生後の新生児期に生まれたアストロサイトは主に大脳皮質深部の白質に分布することも見出された。