カソード型ハーフセルのサイクリックボルタモグラム(3.0~4.5V)の第一サイクルにおいては、DMBAP添加系では非添加系には見られない酸化ピークが観測され、添加剤に基づいた被膜形成挙動が示唆されたという。

DMBAPの量を変化させつつ充放電特性評価が行われたところ、電解液への添加量が2mg/mlの系において最善の性能が観測されたとする。DMBAP 2mg/mlを電解液(EC/DEC/LiPF6)に添加した系においては、1Cの電流密度における100サイクル後の放電容量は83.3mAhg-1であり、DMBAP非添加系の放電容量の42.6mAhg-1を大幅に上回ったことが確認された。またDMBAP添加系においては、リチウム挿入・脱離反応のオーバーポテンシャルの低下も観測された。さらに、DMBAPによる電池系の安定化効果はフルセルにおいても顕著だったとする。

次に、カソード型ハーフセルにおける界面形成挙動の解析のため、動的インピーダンス測定が行われた。各電圧下における、それぞれのインピーダンススペクトルに関する等価回路フィッティングが行われ、カソード側の界面抵抗の算出が行われた。すると、DMBAP添加系においてはすべての測定条件下において非添加系よりも抵抗が低く、DMBAPの界面抵抗低減効果が顕著であることが判明した。

加えて、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2正極を電解液(EC/DEC/LiPF6)中で保管された系においては、走査型電子顕微鏡像において形態の変性が観測されるが、DMBAPを共存させた系においては形態変化は抑制され、DMBAPによる安定化効果が再び示されたという。

  • DMBAPによるLiNMC系正極安定化の概念図

    DMBAPによるLiNMC系正極安定化の概念図。重合性官能基を持つこと、フッ化水素をトラップ可能な構造であること、遷移金属への配位子構造などを併せ持つことなど、安定化剤として理想的な構造を有する (出所:JAIST Webサイト)

これらの結果を踏まえ研究チームでは、LIBの開発においては、作用機構が異なるほかの添加剤との併用により、さらなる相乗効果につながることが期待されると説明してるほか、遷移金属組成の異なるさまざまなLiNMC系正極を効果的に安定化することも期待できるとする。

なお、今後は、企業との共同研究を通して将来的な社会実装を目指すとしており、特に電池セルの高電圧化技術の普及と電池材料のバイオマス代替促進を通して、社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待されるとしている。