セールスフォース・ジャパンは11月29日・30日の2日間にわたって、「Salesforce World Tour Tokyo」を開催している。

Salesforce World Tour Tokyoとは、セールスフォース・ジャパン主催の「A New Day for Customer Magic~テクノロジーでつながる新しい社会~」をテーマとしたバーチャルイベント。

本稿では、29日の特別講演「『ビジョン』か、『財務』か 逆境に立ち向かう、攻めと守りの経営の裏側とは」の一部始終をお届けする。同講演には日立製作所の執行役副社長 CFO兼CRMOの河村芳彦氏とビックカメラの執行役員 デジタル戦略部長である野原昌崇氏が登壇し、製造業と小売業という異なる業界から見た「DX(デジタルトランスフォーメーション)」について語った。

「DX」のDは何の略?

「御社において、DXのDは何の言葉の頭文字という認識ですか?」

セールスフォース・ジャパンの取締役 副社長である古森茂幹氏の問いかけからスタートした同講演。

DXとは、通常「デジタルトランスフォーメーション」のことを指しており、「D=デジタル」と捉えられるのが一般的だが、シチュエーションによっては他の言葉を当てはめて目標を立てたり、プロジェクトを進めたりしていく場合もあるのだという。

「弊社では、本来の意味合いである『デジタル』はもちろんのこと、場合によっては『Diversity(多様性)』や『Decentralization(都市集中を避けること)』といった言葉に置き換えて『DX』を推進することもあります」(河村氏)

  • 日立製作所のDXのありかたを語る河村氏

「弊社でもさまざまな意味合いを持たせた『DX』を推進していますが、『分散的』で『自立的』であるという面では、全ての単語な時でも同じ意味合いを持って推進を図っています」(野原氏)

  • ビックカメラのDX戦略を語る野原氏

両者が語るように「DX」にはさまざまな意味合いと解釈があるようだ。中には「DNA(遺伝子)」の頭文字を取って、伝統を改革していくという場合にも使用されることがあるといい、改革の推進に広がりを見せている。

内製化をスピーディに行うのが「生き残りのコツ」

続いて、古森氏が両者に問いかけたのは「それぞれの企業のDX戦略」だ。

ビックカメラでは、新卒をDX人材に育てる「会社の中で人材を育てる」取り組みがスタートしており、外部に頼るのではなくビックカメラとしての業務が分かっている人材が会社のDXを進めることができることを重要視しているそうだ。

「今後、いかにスピーディに内製化を進めていけるかが、業界の中で生き残っていくためのコツではないかと心得ています」(野原氏)

一方日立製作所では、グループ全体35万人の中から10万人をDX人材に育てるという取り組みが行われている。DX人材を日本だけで採用していくことは難しいため、海外の企業などを通じて年間1万人規模で採用を行っているという。

「DX推進をリードしていく立場である日立製作所は、本来であれば全社員35万人がDX人材になるべきだという想いもあります。しかし、弊社では工場などの現場で働く人も多いため、グループ全体で10万人がDX人材になることを目指して取り組みを進めていきます」(河村氏)

  • DX戦略について語り合う

また、ビックカメラの野原氏は「DXは目的ではなく手段」という言葉を何度も口にしていた。この言葉の通り、DXによって業務内容を効率化することにとどまらず、その業務効率化によって「利益が上がること」をビックカメラでは強く意識しているようだ。

これは「変化対応業(常に変化する顧客に合わせて満足できるサービスを提供し続ける必要のある業種)」である小売業として、「10年後の未来が確約されていない」という想いが起因しており、このことからDXにおいてもアジャイルに重きを置いているという。

施策の実行可否の目安は「会社」「事業部」「プロジェクト」の3本柱

次のテーマとして挙がったのは「DX推進事業に対して実行の可否をどのような判断で出しているか」ということだ。

「DX推進において、実行に移すかどうかを決める際に最も大切な指標は3つあります。1つ目は『会社全体としてリスクを回避できるか』、2つ目が『事業部のキャッシュの範疇で実行できるか』、そして3つ目が『プロジェクトとしてNPD(新製品開発)を黒字にすることができるか』です」(河村氏)

このようにDX推進事業の実行に対して慎重な姿勢を見せる日立製作所の一方で、ビックカメラは「できない」と却下することはほとんどないのだという。

「普段から上層部とコミュニケーションをたくさん取ることで、どんなことはできて、どんなことはできないのかを事前に共有した状態で企画を立てることができます。そのため、アイデアとして実行できないというものはほとんどなく、できないことは皆無という現状になっています」(野原氏)

今回は、日立製作所とビックカメラという異業種のトップランナーである2社、またその2社の中でもデジタルの力で経営資源とビジネスを最大化するCIOと財務戦略や資金調達、投資の意思決定を行うCFOという違う立場の両者からDXの現状がひも解かれた。

2社のDXの現状から、DXを推進する際に気を付けるべきことや企業としての向き合い方について学べるレポートであれば嬉しい。