東北大学発のベンチャーであるElevationSpaceは11月22日、宇宙から物資を持ち帰るために必要な大気圏再突入技術の獲得・実証のため、東北大学 工学研究科の槙原幹十朗教授の研究室と、小型再突入技術実証衛星の構造設計・解析に関する共同研究契約を締結したことを発表した。

国際宇宙ステーション(ISS)については先日、日本も政府として2030年までの運用延長の参加表明を行ったが、ISSは構造寿命などの関係からそれ以上の運用延長は行われない可能性が高い。そのため、後継となる民間宇宙ステーションの建設も計画されているが、ISSの「きぼう」日本実験棟のように、日本の研究機関や企業などが、微小重力環境を用いた基礎科学的な実験などを行うのは難しくなる可能性もある。そこで同社が計画しているのが、「ポストISS時代」を見据えた日本初の宇宙環境利用プラットフォーム「ELS-R」の提供だという。

ELS-Rは、無重力環境を活かした実験や材料製造などを、無人の小型衛星で行うことができるサービスである。打ち上げて軌道上において実験などを行い、そして大気圏再突入して地上に帰還。微小重力環境下ならではの実験結果や製造された材料を持ち帰るというものだという。

  • ElevationSpaceが開発している宇宙環境利用プラットフォーム「ELS-R」のイメージ

    ElevationSpaceが開発している宇宙環境利用プラットフォーム「ELS-R」のイメージ (出所:ElevationSpace Webサイト)

人工衛星を軌道に投入するだけでも技術のいることだが、ELS-Rを実現するには、さらに複雑で難易度の高い技術が求められる。その中でも特に重要となるのが、「大気圏再突入技術」だという。人工衛星を大気圏に再突入させるには、まず周回軌道から離脱させる必要がある。その後、最大の難関である大気圏への再突入が待つ。再突入では機体下面で大気が激しく圧縮されるため、部位によっては1500℃とも2000℃ともいわれるような高温にさらされる。それだけの耐熱性を持った素材で製造する必要がある。

その高熱に耐えた後も、回収されるまでは気が抜けない。確実にパラシュートを開いて減速できなければ、地上へ激突するなどして搭載物資も破損してしまうだろう。また、機体を発見できなかったら、意味がない。

日本においては現在、官民問わず、何らかの人工物体を大気圏に再突入させて地上で回収に成功した実績がある組織は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)だけで、世界でも、大気圏再突入技術を有する民間企業となるとわずかしかない。

同社では、今回の槙原研究室との契約により、小型再突入技術実証衛星の構造設計と構造解析を共同で実施する計画としているほか、将来的にはコストダウンのために、ELS-Rを地上で回収した後に再利用することも視野に入れており、再利用型再突入カプセルの構造設計についての研究開発も共同で行う考えを示しており、今回の共同研究により、大気圏再突入技術獲得に向けた技術実証機の開発をさらに加速させていくとしている。なお、同社の東北大学との共同研究は、累計で5件目となるとした。