夏の風物詩のイメージが強いウナギ。土用の丑の日に合わせて生産される養殖ウナギの旬は6~8月の夏ごろだが、天然ウナギの旬は10~12月なのだそう。まさに今が、天然ウナギの旬というわけだ。
では、養殖ウナギと天然ウナギの違いはどのようなものがあるのだろうか。今回は、中央大学を中心とした研究チームによる、天然ウナギと養殖ウナギについての研究を紹介したい。
放流後の養殖ウナギの生態を調査
昨今、二ホンウナギの減少が社会的な問題となっており、二ホンウナギを増やすために日本各地でウナギの放流が行われている。このような放流の際には、養殖場で育てられたウナギを川や湖に放すことが一般的だという。
しかし、放流後にウナギが生き残る割合や、天然ウナギが生息する場所に養殖ウナギを放流した際の影響などについては、解明されていない部分が多かった。
そこで研究チームは、「小型水槽での行動観察」、「屋外コンクリート水槽での混合飼育実験」、「河川での標識再捕獲調査」の3つの方法で、放流された養殖ウナギに天然ウナギが与える影響について検証した。
3つの実験で天然ウナギと養殖ウナギを比較
行動観察では、隠れ場所としてウナギ1匹のみ入れる太さのパイプを設置した水槽の中に、ほぼ同じ大きさの天然ウナギと養殖ウナギを1個体ずつ入れ、14ペアの噛みつき行動やパイプ占有について記録。その映像をもとに行動分析が行われた。
その結果、天然ウナギによる1時間の噛みつき回数は、養殖ウナギの回数を優位に上回ったとのこと。またパイプの占有については、観察した839回のうち666回(79.4%)が天然ウナギによるものだった。
また屋外での混合飼育実験では、3つのコンクリート水槽のうち2つは天然ウナギと養殖ウナギをそれぞれ5個体ずつ、もう1つでは養殖ウナギのみ10個体入れ、そのほかは同じ条件のもとで、2014年から2016年までの2年間飼育した。
その結果、養殖ウナギのみで飼育した場合は生存率が90%だったのに対し、天然ウナギと混合飼育した養殖ウナギの生存率は40%だったという。加えて、養殖ウナギの1日あたりの体重増加量は、養殖ウナギのみで飼育するよりも混合飼育した場合の方が低い値を示した。さらに、養殖ウナギのみでの飼育、および混合飼育した水槽の天然ウナギの合計重量は増加したが、混合飼育した水槽の養殖ウナギは、重量が増加しなかった。
最後に、河川での標識再捕獲調査では、天然ウナギの生息密度が異なる4つの河川に養殖ウナギを同密度で放流し、3ヶ月後・1年後・2年後に養殖ウナギの生息密度や成長度、動きなどの観察を実施した。
その観察データからは、天然ウナギと養殖ウナギの違いとして、放流から2年後の養殖ウナギは、個体数密度が放流時から94.9%減少した。また併せて、天然ウナギが少ない河川(三本木川・長沢川)では、天然ウナギの多い河川(貝底川・波多打川)に比べて早く養殖ウナギが成長したということがわかった。
この結果から研究チームは、天然ウナギが生息する河川に放流された養殖ウナギは、種内競争によって成長速度が低下すると考えられるとしている。
ウナギの放流方法を見直す必要性を示唆
今回の3つの実験で得られた結果から、飼育を通じて養殖ウナギの種内における競争能力が低下し、天然ウナギに対して劣位となることが明らかとなった。したがって、天然ウナギが生息する水域に養殖ウナギを放流することは、放流の効果を低下させる可能性があるといえる。
研究チームは、養殖ウナギと天然ウナギは遺伝的に同一の集団であるため、養殖ウナギの種内競争能力の低下は、養殖場における飼育そのものが要因だとしている。
つまり、今回の研究で用いた手法での放流によって二ホンウナギ資源を大幅に増加させることは困難で、今後は効果改善のため、現在行われているウナギの放流方法について改めて検討を行う必要があるとした。
同じ遺伝子とはいえ、味以外に天然ウナギと養殖ウナギにはこのような違いがあるとは驚きだ。