宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月7日、種子島宇宙センターにて、H3ロケット初号機の「実機型タンクステージ燃焼試験」(CFT)を実施した。試験は無事に終了。H3の初打ち上げは当初の予定からすでに2年遅れていたが、これでほぼ全ての試験が完了し、いよいよ残すは打ち上げのみとなった。打ち上げは2022年度中に行われる見込み。
H3ロケット初号機の機体は前日の11月6日18時35分頃、大型ロケット組立棟(VAB)から姿を現し、約30分ほどをかけて、第2射点への移動を完了した。H3ロケットの機体が射点に立つのは、2021年3月に実施された極低温点検(F-0)以来。そしてこの後、再び射点に戻ってくるのは、打ち上げのときということになる。
極低温点検時に比べると、今回はより本番に近い姿となっている。まず、フェアリングはフライト用のものを使用。前回は試験用のロングタイプが搭載されていたが(色が黒いのはそれはそれでレアなのだが)、今回はショートタイプであるため、背はやや低くなる。なお、内部に衛星は搭載していない。
そして外部からは見えないものの、LE-9エンジンもフライト用になっている。今回のCFTは、LE-9エンジンを機体のタンクと組み合わせ、推進系のシステム全体としての機能・性能を確認することを目的としている。以前実施した「厚肉タンクステージ燃焼試験」(BFT)は、試験用のタンクを使っているので、そこが大きな違いである。
H3の初号機は、「H3-22S」というコンフィギュレーションで、LE-9エンジンは2基、固体ロケットブースタ(SRB-3)は2本搭載する。ただ今回は、安全のため、SRB-3は搭載していない。そのため外観としては、初号機よりも、ブースタ無しの2号機に近い印象だ(2号機はLE-9エンジンが3基となるが、射点では外から見えない)。
ブースタが無いため、LE-9エンジン2基を燃焼させても浮き上がらないはずだが(推力よりも重力の方が強い状態)、倒れやすい状態になるので、機体は移動発射台(ML5)に固定しておく。もともと、ML5には推力が立ち上がるまで機体を保持しておく仕組みが搭載されており、CFTではそれを利用する。
CFTの手順は、打ち上げ本番と全く同じように進む。極低温点検では、点火の直前で止めていたが、CFTは燃焼まで行う。ただし、燃焼時間は約25秒間に留める。
CFTでは、フライト時の機体とエンジンをそのまま使うため、長い時間燃焼させると、それだけ負荷が大きくなる。本来、すぐに飛んでいくものなので、それを射点に置いたままだと、地上設備の損傷も心配だ。検証に必要なデータさえ取れれば良く、その最小時間が25秒、というわけだ。
CFTはこの日、朝7時半に実施する予定であったが、エンジン燃焼時の振動・音響を計測するためにML5に設置されていた装置が機能していないことが分かり、16時に延期。作業員が射点に立ち入るための安全化措置として、推進剤の量を規定以下になるように排出し、手動で再起動したところ、データが正常に届くようになったという。
その後、より確実にCFTを実施するため、30分だけ再延期されたものの、カウントダウンは順調に進み、16時半に点火、水蒸気の白煙を上らせながら、燃焼を終えた。データの正確な評価はこれからとなるものの、概ね予定通りの燃焼時間だったという。少なくとも、途中で異常が検出されなかったとは言えるだろう。
プレスの撮影場所が射点から3kmほど離れているということもあるだろうが、エンジン燃焼時の音量については、いつもの打ち上げに比べれば、それほど大きくは無かったという印象だった。これは、やはり固体ロケットブースタの燃焼音が加わっていない、という影響が大きいのだろう。
JAXAは翌日の10時より、試験結果に関する記者説明会を開催する予定。詳細な内容については、また追ってお伝えしたい。