一般に、宇宙にある天体に含まれる元素の種類を調べるには、光のスペクトルが用いられる。個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるため、スペクトルに見られる吸収線を調べることで、元素の種類を直接特定することが可能となっている。

しかし、中性子星合体では物質が高速で膨張しているため、光のドップラー効果で波長がずれてしまい、元素の特定が非常に困難なほか、中性子星合体によって作られる元素は鉄よりも重い元素ばかりで、そのような元素がスペクトルにどのような特徴を作るのかも実はわかっていなかったという。

中性子星合体GW170817に伴って観測されたキロノバでは、詳細なスペクトルの取得に成功。可視光域では、これまでに原子番号38のストロンチウムの兆候が報告されていたが、赤外線域には解読されていない吸収線の特徴が残されていたという。そこで研究チームは今回、キロノバのスペクトルを解読するため、すべての重元素がどの波長にどのような吸収線を作るのかを網羅的な調査を実施。アテルイIIを用いた詳細な数値シミュレーションが行われ、キロノバのスペクトルが計算された。

  • GW170817で観測された「キロノバ」のスペクトル

    GW170817で観測された「キロノバ」のスペクトル(灰色)と今回の研究で得られたスペクトル(青色)。左の数字は中性子星合体発生後の日数。破線で吸収線の特徴を、同じ色でそれらの特徴を作る元素名が示されている。スペクトルは見やすいように縦軸方向にずらされている。観測スペクトルの1400nm付近、1800~1900nm付近は地球大気の影響を受けている (c) Domoto et al.(出所:国立天文台Webサイト)

その結果、レアアースに含まれる原子番号57のランタンと原子番号58セリウムが、キロノバの赤外線スペクトルに吸収線を作ることが判明。そして、中性子星合体GW170817のスペクトルに見えていた吸収線の特徴が、それらのレアアースによって説明できることも明らかにされた。これにより、実際に中性子星合体でランタンとセリウムが合成されたことが、直接的に特定されることとなったという。

今回の成果により、宇宙の重元素合成の証拠をキロノバのスペクトルから直接得られることが示されたことから、研究チームでは今後、重力波観測が進展することで、より多くの中性子星の合体が観測されることが期待されるとしているほか、今回の研究で確立された手法を用いることで、宇宙における重元素の起源について理解が大きく進むことが期待されるとしている。