具体的には、ハダニがアリの足跡を避けるかどうかを調べることを目的に、アリの人工巣の入口に実験に使うマメの葉片を玄関マットのように置いて自動的に足跡がつくように仕掛け、全体的にアリの足跡物質のついた葉片を用意。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要 (出所:京大プレスリリースPDF)

「玄関マット作戦」と命名され、玄関マット作戦の葉片と、足跡をつけていない葉片を隣り合わせにしてハダニに選ばせたところ、ナミハダニもカンザワハダニも、自分たちを捕食するアミメアリだけではなく、捕食しないクロヤマアリの足跡も避けることが確認され、ハダニは捕食されるかどうかに関わらず、アリ全般の足跡を避けている可能性が示唆されたという。これは、「危ない臭い」がする場合は、とりあえず避けるという慎重な戦略を採用していると考えられるという。

  • 葉片にアリの足跡をつける装置

    (a)葉片にアリの足跡をつける装置。(b)(a)の葉片に対するハダニの忌避性を調べる装置 (出所:京大プレスリリースPDF)

また、カンザワハダニがアミメアリの足跡を避け続ける時間は、1時間以上続くことも確認されたほか、ハダニは自分たちを捕食するもの、またはそれに似ているものの臭いに敏感で、同じダニでも捕食者のカブリダニ、そして捕食しないマダニの足跡も避けることも確認したが、別の農業害虫であるワタアブラムシ3匹を5分間閉じ込めた葉片は避けないことも確認したとする。

さらに、餌植物の枝についたアミメアリの足跡をカンザワハダニが避けるかどうかが調べられたところ、葉片同様に、ハダニはアリの足跡がある枝を避けることを確認。このことから、ハダニ以外にも小さな害虫はいるにも関わらず、自然界においては餌となる植物がごく一部しか被害を受けないのは、アリの足跡による抑止効果の可能性が考えられると研究チームでは説明する。

加えて、ハダニがアリの足跡物質を避けることを確かめることを目的に、アリの足跡から抽出された成分がT字型の濾紙の片方に塗られ、反対側には溶媒だけが塗られ、カンザワハダニをT字の下端から登らせて分岐でどちらを選ぶかを観察したところ、アリの足跡抽出物を避けたことから、ハダニがアリの足跡物質を避けることが確認されたという。

  • 植物の茎についたアリの足跡に対するハダニの忌避性を調べる装置

    (a)植物の茎についたアリの足跡に対するハダニの忌避性を調べる装置。(b)カンザワハダニはアミメアリの足跡がある植物の枝を避ける。(c)アリの足跡抽出物に対するカンザワハダニの忌避性を調べる装置。(d)カンザワハダニは両種のアリの足跡抽出物を避ける (出所:京大プレスリリースPDF)

これらの結果について研究チームでは、アリの足跡物質という天然化合物を利用して忌避剤を作ることで、化学農薬に耐性を持つハダニたちを農作物から追い払える可能性があるとしている。

従来の化学農薬は、有害物質で害虫を殺したり追い払ったりする仕組みのため、それが人体や環境を害する恐れもあったが、アリの足跡物質は、アリが仲間同士で使う無害な化学物質であり、ハダニはその臭いからアリの存在を察知して捕食から逃れようとしているだけなので、もしアリの足跡物質に耐性をつけて避けなくなった場合、アリに捕食されるという運命が待つこととなる。ハダニに限らず、農業害虫は自然生態系では大発生しないとされていることから、彼らの大発生を抑えている仕組みを解明して応用することにより、合成農薬に頼った農業から脱却できる可能性があると研究チームでは指摘している。