今回の研究を実施するにあたっては、着脱可能な無線式心電計をハシブトガラスの胸部に取り付け、カラス自身がこれを外すのを防ぐためのベストを開発することで、自由に行動するカラスから心電図を記録できるシステムが開発された。

  • ハシブトガラスの胸部に装着した無線式心電計

    (A)ハシブトガラスの胸部に装着した無線式心電計。(B)心電計の脱落防止のための特製ベストを着用したハシブトガラス。(C)実験の模式図。(D)結果の一部。対面前と比べると、心拍は劣位個体で低下し(オレンジのグラフ)、優位個体ではそのような反応はみられなかった(グリーンのグラフ) (出所:慶大プレスリリースPDF)

実際の実験では、対面前5分間と対面中5分間の心電位データをもとに、1分当たりの心拍数と、心拍変動解析という手法を用いて自律神経(交感神経、副交感神経)の活動バランスが調べられた。その結果、劣位オスでは、優位オスと対面している間、心拍が低下し、副交感神経の活動が強くなっていることが確認されたという。一方、相手である優位オスの心拍は変化せず、交感神経の活動が強くなっていたとする。

これらの結果は、相手との関係によって異なる身体反応がカラスに生じていることが示されていることを意味するという。特に、ヒトやげっ歯類の研究において、副交感神経の強い活動を伴う心拍低下は、嫌悪や恐怖などの負の情動に伴って生じる身体反応であることが示唆されていることから、劣位オスに生じた身体反応は、強いオスに対して「嫌な」「怖い」という負の情動が生じている可能性が示されていると研究チームでは説明する。

なお、今回の研究により、ヒト(哺乳類)とは進化的に異なる動物である鳥類の心の働きの解明に、身体反応のレベルからその働きの一端が示されたこととなり、研究チームでは、複雑な社会を営む動物において、相手との関係に応じた脳や身体の働きを明らかにし、さまざまな動物で比較することは、他者との関係構築やそれに応じたコミュニケーション・行動が、どのような心の働きを生み出してきたのかという、進化における心の多様性と類似性を解き明かすための重要な示唆を与えられることが期待されるとしている。