適格請求書(インボイス)などの保存を仕入税額控除の新たな要件とする「インボイス制度」の開始まで1年を切った。2023年10月1日の制度開始時に同制度を利用するには、同年3月末までに、所轄の税務署に登録申請をしなければならない。

しかし、東京商工リサーチの調査によると、その登録件数は2022年8月末時点で99万3140件。消費税を納めている課税事業者が20年度末時点で約318万件(国税庁資料)に達していることを考慮すると、約3分の1の課税事業者しか登録を済ませていないことになる。

  • 法人の都道府県別インボイス登録率(登録件数2022年8月末現在) 出典:東京商工リサーチ

    法人の都道府県別インボイス登録率(登録件数2022年8月末現在) 出典:東京商工リサーチ

また、ラクスが全国の経理担当者848人を対象に実施した調査によると、37.3%が「インボイス制度を知らない」と回答している。つまり、インボイス制度開始に伴う混乱の回避に向け、業界全体で周知の徹底が求められている。

勢いを増すインボイス反対の声

一方で、免税事業者(前々年度の課税売上高が1000万円以下の事業者)からの同制度への反対の声は大きい。なぜなら、課税事業者と取引している免税事業者は、23年10月1日以降、価格の見直しなどを交渉される可能性があるからだ。また、インボイス発行事業者ではないことが原因で、新規顧客との契約を取りづらくなる可能性も考えられる。

ウイングアーク1stが9月に発表した調査結果によると、約8割の事業者が、取引先の免税事業者が課税事業者への転換をしなかった場合、「今後の取引に影響する」と回答している。免税事業者は現在、「今のまま免税事業者でいる」、「インボイスを発行するため課税事業者になる」という2者択一を迫られている。

「益税の阻止」を1つの目的として開始するインボイス制度だが、免税事業者であるフリーランスなどの零細事業者からは、「消費税の本質に反する」、「格差が広がる恐れがあり、日本経済が危うくなる」といった反対の声が聞こえる。日本漫画家協会や日本アニメーター・演出協会はインボイス制度に反対する名声を発表しており、9万筆以上の反対署名を集めている団体「STOP!インボイス」の活動も盛んだ。

  • インボイス制度に反対の声を上げる団体「STOP!インボイス」の公式ホームページ画面

    インボイス制度に反対の声を上げる団体「STOP!インボイス」の公式ホームページ画面

10年間の経過措置

しかし、いくら「待ったなしのインボイス制度」といっても、実施にあたり10年間の経過措置期間が設けられている。免税事業者と取引のある課税事業者は、施行日の2023年10月1日から29年9月30日までは、段階的に消費税の金額を差し引くことができるのだ。

具体的には、2023年10月1日から2026年9月30日までは支払った消費税額のうち80%、2026年10月1日から2029年9月30日までは支払った消費税額のうち50%を差し引くことができる。ただし、2029年10月1日からは一切、消費税額の差し引きができなくなる。免税事業者はこの間に、課税事業者への転換の要否を見極めながら対応を検討しなければならない。

  • インボイス制度実施に当たっての経過措置 資料:財務省

    インボイス制度実施にあたっての経過措置 資料:財務省

政府の試算によると、免税事業者から課税事業者への転換数は約161万、新たな課税事業者の1事業者あたりの税負担額は約15万4000円になる見込み。つまりインボイス制度の導入で生まれる増収見込み額は、この2つの数字を掛け合わせた約2480億円になる。

インボイス賛成派の意見とは?

インボイス制度賛成派の意見はどうだろうか。

「インボイス制度開始後すぐに『免税事業者だから取引をやめる』と、突き放す課税事業者は少ないだろう。大企業も鬼にはならない。対応するシステムなどの構築も、丸投げはしないだろう」

そう語るのは、請求書受領クラウドなどを提供するTOKIUM 代表取締役の黒﨑賢一氏。そして「インボイス制度の施行は確定しており、いま賛成・反対を問うよりも、零細や中小事業者に配慮した形で対応を進めるにはどうするべきかを、大企業や専門のベンダーを中心として考えていくべきだ」と、同氏は補足する。

その考えを踏まえた上で黒崎氏は、「課税事業者は大口取引先に対しては対応を急ぐが、フリーランスなどの零細事業者に対しては、取引を中止したり価格調整を行ったりするほど追い込むこむことはないだろう」と予測する。

  • TOKIUM(旧BEARTAIL) 代表取締役の黒﨑賢一氏

この意見は正しいかもしれない。ウィングアーク1stの調査によると、取引先が免税事業者のままでも(課税事業者へ変更しなくても)どれだけの期間、取引を継続する意向があるかとの質問に対して、13.6%が「1年間は取引を継続する」、38.0%が「2~3年間は取引を継続する」、13.2%が「3~4年間は取引を継続する」、5.4%が「4~5年間は取引を継続する」、9.1%が「5年後以降も取引を継続する」と回答し、約8割の課税事業者が1年以上は取引を継続する意向であることが分かった。それに対し「取引は継続しない」と回答したのはわずか3.7%だった。

また黒崎氏は、別の視点からもインボイス制度に賛成している。

「今後も増税が避けられない日本の現状を顧みると、インボイス制度は必要な制度だ。インボイス制度がないまま増税を続けたとしても、消費者から徴収した税は国に納付されず、事業者の財布に溜まっていく。税の徴収効率を高める必要がある」(黒崎氏)

確かに個人的に消費税を払っている国民のためにも、一部存在する悪質な益税をなくして、その負担を減らすことは重要なのかもしれない。

世界に目を向けると、日本が消費税を導入する以前から、ヨーロッパ諸国ではこれと同じような税制「付加価値税」を導入しており、その大半が税率20%を超えている。「税率が上がると仮定し長期的な視点を持って、インボイス制度の理解を深める必要がある」(黒崎氏)

  • 諸外国などにおける付加価値税率(標準税率及び食料品に対する適用税率)の国際比較 資料:財務省

    諸外国などにおける付加価値税率(標準税率及び食料品に対する適用税率)の国際比較 資料:財務省

インボイス制度に対して反対するにしろ賛成するにしろ、消費税に関する知識は不可欠である。筆者もまだまだ知識が乏しいので、取材を通じて勉強していきたいところだ。