東京大学(東大)は10月19日、自発的もしくは外的刺激という2つの異なった文脈に基づいて同じ運動を開始する課題を行っているマウスの脳活動を、前頭葉前方に位置する「高次運動野」(M2)とその後方に位置する「一次運動野」(M1)において単一細胞レベルで詳細に測定した結果、M2浅層部の神経細胞は文脈情報という抽象度の高い活動を、M1深層部の神経細胞は具体的な動作と一致した抽象度の低い活動を安定して示すのに対し、その中間に位置するM1浅層部の神経細胞や高次運動野から一次運動野へと入力する神経細胞では、個体の運動成績の向上に伴い、抽象度の低い活動から高い活動へと動的に変化することを発見したと発表した。

同成果は、東大大学院 医学系研究科の寺田晋一郎助教、同・松崎政紀教授、生理学研究所の小林憲太准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンス全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Cell Reports」に掲載された。

ヒトの動作は、自発的に開始する「内発性」と、視覚や聴覚などの感覚刺激によって開始する「外発性」とに分けることが可能とされており、この両者は、これまでの研究から脳内での情報処理経路が大きく異なることが想定されていたという。また、前頭葉のM2では各開始信号依存的な神経活動が見られていたのに対し、その後方のM1では同一の活動が生じることもわかっていた。これは前方から後方へ向かうに連れて、処理する情報が抽象的な内容から具体的な動作へと移り変わっていくということだという。

ただし、領野間で実際にどのような情報が送られているのか、どのようにして異なった活動は同一の活動へと収斂するのか、またそれらは個体の学習状況に依存するのかといったことは、依然として不明だったという。そこで研究チームは今回、マウスに対し、自発的、もしくは音キューに応じてレバーを引くことで報酬を得られるという、内発性・外発性の運動課題を行わせることにしたとする。