加えて、芳香族アミンの腸内での存在が宿主にどのような影響を及ぼすのか、マウスを用いた検証が行われた。芳香族アミン産生菌5種のうち、遺伝子操作が可能な「エンテロコッカス フェカリス」を用いて、AADC遺伝子を欠損した「AADC欠損株」および、AADC欠損株にAADC遺伝子を再導入した「AADC相補株」が作製されたほか、野生株をそれぞれマウス腸管に定着させ、フェニルアラニンを高濃度で添加したエサを与えたところ、AADC相補株マウスでは、AADC欠損株マウスと比べて、大腸組織中のセロトニン量が有意に多いことが判明したとする。

さらに、糞中のAADC遺伝子量は、AADC欠損株マウスおよび野生株マウスと比較して、AADC相補株マウスが有意に多かったことから、AADCを持つ腸内細菌が一定数以上存在すると、宿主の末梢セロトニンの産生が促進されることが考えられると研究チームではしている。

末梢セロトニンが過剰に産生されると、骨粗しょう症や過敏性腸症候群が引き起こされてしまう。そこで研究チームは、腸内細菌のAADCを阻害することで、それらの疾患の予防・治療できる可能性があることを考察。ヒトのAADC阻害薬を用いて、芳香族アミン産生に対する阻害効果の評価を実施。その結果、AADC阻害薬を添加しなかった場合と比較して、添加した場合はフェネチルアミン産生量が10分の1以下に減少することが確認されたとする。このことから、腸内細菌のAADC阻害薬が、セロトニンの過剰産生によって生じる疾患の治療薬として有望であることが示唆されたという。

  • 今回の研究成果の概要図

    今回の研究成果の概要図 (出所:群大・金沢大共同プレスリリースPDF)

なお今回の成果に関連して、2022年3月に香港の研究チームが、同様の研究を査読前論文として公開しており、まったく独立した2グループからほぼ同一の知見が得られたことは、今回の成果の信頼性を担保するものと考えられると研究チームでは説明している。

今後については、胃や小腸などで吸収されずに大腸に届き、腸内細菌のAADCを特異的に阻害する薬剤を開発することで、骨粗しょう症や過敏性腸症候群の治療あるいは予防法の開発につなげたいと考えているとしている。