水素クラスターのサイズ分布は温度制御により変化させることができるため、陽子ビーム加速の状態を制御することが可能となることから、今回の実験では、絶対温度25K(-248℃)と50K(-223℃)に設定。サイズ分布は、50Kでは直径約0.3μm、25Kでは約0.3μmに加えて2.3μm程度までの水素クラスターが発生。水素は、電子を1個獲得した陽子であり、水素クラスターにレーザーが照射されると、多数の水素から電子が剥ぎ取られ、陽子となって加速されることとなる。
実験の結果、観測されたエッチピット(腐食孔)の大きさやエネルギー分布のデータ解析から、純度100%の陽子ビーム加速が実現されていることが証明されたとするほか、レーザー進行方向において1ショットあたり10億個を超えるMeV領域の陽子ビームが発生していたことが示されたという。
また、25Kと50Kで加速された陽子ビームにおける、最大エネルギーのデータのばらつき度合いの評価から、25Kの327個のデータ中央値と四分位偏差は、それぞれ1.54MeVと0.58MeVであり、約38%のエネルギー変動があることが判明した一方、50Kの76個のデータは、中央値と四分位偏差が、それぞれ1.40MeVと0.15MeVであり、約11%のエネルギー変動が確認され、外れ値と分類されたデータの外れ具合も小さいことが判明。これらのことから、直径0.3μm程度の大きさに揃えた水素クラスターを用いることで、エネルギー変動を約11%に抑えた陽子ビームを発生させることができるようになったといえると研究チームでは説明している。
なお今回の成果について研究チームでは、レーザー駆動陽子ビーム加速器の実現で不可欠となる、高純度で高いエネルギー安定性を持つ陽子ビームの発生を可能にする基盤技術となるとしている。今後、従来の加速器で発生する陽子ビームのパルス幅に比べて1000分の1以上短いという点を活かし、これまで未知だった放射線による材料損傷の瞬間を捉えて分析することにより、材料劣化のメカニズムを解明し、放射線の影響が強い宇宙や原子力環境に耐えうる新材料開発などに貢献することが期待されるとしている。