NECは10月7日、ベクトル型スーパーコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA」のデータセンター向け新モデル「SX-Aurora TSUBASA C401-8」を2023年3月31日より提供開始すると発表した。
同日には、製品の特徴と同社のHPC/量子コンピューティング事業の今後の展開に関するオンライン記者説明会が開かれた。
Web広告最適化、人材マッチング、マルウェア検知などにも活用
SX-Aurora TSUBASAは、ベクトルプロセッサをコンピュータの機能拡張などに用いられるPCI Expressカードに実装したスーパーコンピュータだ。既存の環境のサーバに搭載して利用できるカード型の「ベクトルエンジン」のほか、オフィスや店舗で利用できるタワー型のエッジモデルやラックマウント型のオンサイトモデルなどがリリースされている。
現在、同製品シリーズは100以上の団体・企業で採用されており、ベクトルエンジンの出荷累計は2万枚以上となる。NECは2023年度を目途に全モデルで3万枚のベクトルエンジンの出荷を目指して、HPC/量子コンピューティング事業を推進していくという。
NEC システムプラットフォームビジネスユニット Aurora・量子コンピューティング販売推進グループ ディレクターの浅田洋祐氏は、「流体解析や気象予測、構造解析、電磁場解析などメモリ性能を重視される領域で活用されている。現在はビッグデータやAI向けの需要が高まっている。当社としてもより幅広い産業分野での展開を目指しており、高度で複雑な現象を解明する特定用途向けの対応アプリケーションを増やしつつ、今後は提供形態の多様化や、システムのダウンサイジングに資する製品・サービスも提供していきたい」と今後の事業展開を説明した。
SX-Aurora TSUBASAの産業分野でのターゲット領域は、気象変動や津波発生、商品の需要動向、犯罪の発生などさまざまな現象の予測のほか、産業システムの制御やWeb広告最適化、人材マッチング、マルウェア検知など幅広くあるという。
また近年、スーパーコンピュータの利用にあたっては、異なるプロセッサを組み合わせてシステムを構築するヘテロジニアス・コンピューティングの採用が広がっており、NECも汎用CPUサーバにベクトルエンジンやGPUなどのアクセラレータを組み合わせたヘテロジニアス計算環境の提供を引き続き進めていくという。
新モデルはAI・ビッグデータ分析など大規模構成向け
同日に製品提供が発表されたデータセンター向けの新モデルであるSX-Aurora TSUBASA C401-8は、AIやビッグデータの分析や大規模なシミュレーションなど、データセンターでの計算処理に適したモデルとなる。
現行のベクトルエンジン「VE20」は、ベクトルプロセッサが10コア、3.07TFの演算性能とプロセッサあたり1.53TB/sのメモリ帯域となる。新製品には、従来製品に比べて性能が向上した「VE30」という最新のベクトルエンジンが搭載されており、プロセッサの性能、メモリバンド幅が1.6倍、メモリ容量も従来の2倍(48GBから96GB)に強化されている。また、最先端のプロセスを採用したことで電力効率を従来製品に比べて2倍向上しているという。
加えて浅田氏は、「L1、L2に加えて、容量の大きいL3キャッシュを新規に追加しており、アーキテクチャ上の大きな変化だ。こちらを利用することでキャッシュヒット率の向上を図れる」と解説した。
同製品は2Uラックマウントモデルのみでの提供となり、現状ではVE30のベクトルエンジン単体での販売は予定していない。ただし、データセンター向けモデルのクラウドサービスでの提供は検討しているという。
NECはベクトルエンジンの開発を今後も継続していき、2025年度にはさらに処理性能を向上させた「VE40」を提供する予定だという。