観測衛星の最適化でも試行錯誤の連続
コロナ禍で導入した衛星データは、コーヒー農園のリノベーション作業を効率化し、木を健康に保つことにも役立ったわけだが、成果を出すにあたっては、衛星データの解析を担当する国際航業側にも試行錯誤があった。成果報告書によると、衛星データとして欧州の光学地球観測衛星「Sentinel-2」(解像度10m)と、米国の商用地球観測衛星「Worldview-2」および「Worldview-3」(両機とも解像度0.7m)を利用している。一般的に高解像度の衛星はコストが高く、農業での利用とは見合わない部分もあるが、そのあたりの「兼ね合い」はどうしたのだろうか。
「衛星画像の解像度とコストはトレードオフの関係があるのですが、今回は実際にどう見えるかという立ち上げ期での実証ですので、さまざまなデータを取得して、既存文献で目につく植物について、その活性度を示すNDVI(正規化植生指数)などの関連する指標を全部計算してみるといったことをしています。また、コーヒーの木と周辺の植生の反射特性の違いも検証しました。低コストのSentinel-2だと解像度が荒すぎて周囲の植生の影響が大きいのですが、時系列の変化を見る場合には有効です。一方で、Worldviewならば解像度が高くコーヒーの木だけを見ることが可能ですが、コストは高くつきます。ただし、時間分解能は年に数回でもよいと思います。UCC上島珈琲さんともフィードバックのミーティングを重ねていて、これから追加の検証をしていくところです」(国際航業 戸田さん)
世界でも難しいとされていたコーヒーの営農支援に、衛星データを活用することにいち早くチャレンジしたチームだからこそ掴めた知見といえそうだ。
農園の病害対策や早期検出への貢献も期待
今後、コーヒー栽培の現場で衛星データ活用が見込まれる用途が病害対策だ。代表的なものには、コーヒーの収量が落ちる原因として知られる「さび病」がある。
「さび病はカビの一種が原因で起きる病気で、コーヒーの木が感染すると葉が変色してしまい、進行すると葉が落ちてしまいます。木は光合成ができなくなり、実が熟さなくなって収穫できなくなりますし、木によっては枯死してしまうこともあるのです。19世紀中ごろのスリランカでは、コーヒーの木にさび病が大流行し、それまで盛んだったスリランカのコーヒー栽培が紅茶に変わっていったという歴史があります。近年でも、エルサルバドルでさび病が猛威をふるってコーヒーの収穫量が大幅に減り、日本との取引量が激減しました。さび病の対策として、人の往来を減らして感染拡大を防ぐ方法もありますが、風に乗って運ばれたり野生動物が運ぶこともありますから、隔離だけで防ぐことは難しいです。リノベーションをきちんと実行し、若く健康な木に更新するといった対策が必要です」(UCC上島珈琲 日比さん)
リノベーションの効率化を通じて、衛星データはコーヒーの病害対策にも貢献することになる。それだけでなく、発見に役立つことへの期待もあるという。
「衛星データによって、さび病の早期検出ができるのではとも考えています。ハワイではこれまでさび病が発生していなかったのですが、たまたま私たちが取り組んでいたのと同じ時期にさび病が発見されてしまいました。さび病はこれまで、スポット的に徐々に広がっていくイメージだったのですが、思った以上に広がりが早いこともわかってきました。客観的な宇宙から見たデータは、対策の助けになると思います」(UCC上島珈琲 日比さん)
コーヒー営農支援で衛星データのさらなる活用へ
海外渡航の回復という点でこれからコロナ禍の影響は減っていったとしても、いち早く実証に取り組んだ成果は確実に残っていく。
「今後、海外への渡航回数が戻ったとしても、衛星からの客観的なデータが得られることは、コーヒー営農支援の上で役立つと思っています。私たち農事調査室にも、リモートセンシングでのイベントでの発表やサステナブルな取り組みの発信など、さまざまな声がかかるようになっていますから、営業活動にも役立っていますね」(UCC上島珈琲 日比さん)
初めて衛星データでコーヒー農園を見たとき、「思ったよりも木の密度が低いという印象があり、密度を増やす余力があるのではと感じました」という日比さん。特定の分野について専門知識を持つ人であれば、衛星データからさまざまなデータを引き出すことができる。解析の専門家である国際航業とチームを組むことで、データのポテンシャルを引き出すことができた事例だ。