衛星データ活用におけるコーヒー農園特有の課題とは

意外なことに、衛星リモートセンシングによるコーヒー営農支援は、当時期待を集めつつもまだ世界的に例が少なかったのだという。今や精密農業には欠かせない衛星データは、コーヒーのような付加価値の高い作物ならばもっと積極的に利用されているのかと思いきや、そうでもない。これには、米や小麦のような穀物栽培と異なり、コーヒーの木を衛星データから区別することが難しいという事情がある。

衛星リモートセンシングでコーヒー農園をマッピングする技術を検証したレビュー論文によれば、コーヒー農園は比較的標高が高く複雑な地形の場所かつ、小規模な農園で栽培されることが多い。直射日光と暑さに弱いコーヒーの木を日陰に入れるため、「シェードツリー」と呼ばれる樹木で囲む栽培方法も一般的だ。しかし、農園の規模が小さく山肌にあり、さらに他の木の影になっているというコーヒーの木は、衛星データから見つけにくいというハードルがある。

UCCと国際航業の取り組みは、この「シェードツリーがある」ということを織り込んだ上で衛星リモートセンシングを活用するアプローチをとった。シェードツリーは、コーヒーの木を守る役割に加えて、CO2を吸収する樹木で、コーヒー農業の持続可能性を高める役割もあるからだ。

「コーヒーは直射日光に弱い植物ですから、背の高い木を植え日陰を作って栽培する方法が一般的です。シェードツリーを増やしていくと、結果的にCO2を吸収する木の数を増やすことができる。また、どんなシェードツリーを植えるかは栽培地の事情によって異なりますが、近年ではもともとその地域にあった木を選び、自然に配慮するように変わってきています。衛星データで、シェードツリーのCO2吸収量や周辺の森林との類似性を評価することができるのです」(UCC上島珈琲 日比さん)

「衛星データの良い点のひとつは、地球観測プロジェクトがこれまで50年間続いていることもあり、アーカイブされた長期間のデータを利用できるということです。特に森林保全の場合は、過去との比較が重要になってきますから、同じリモートセンシングでもドローンにはないメリットですね。森林のCO2吸収量を計算したいという需要は最近増えてきていますが、基本的には森林タイプごと、単位面積あたりの蓄積を現地調査から求めて、これと森林の変化面積をかけて算出できます。この各森林タイプの面積を推定するのに衛星データを使います。これはREDD+プロジェクトなどでも以前から用いられてきた方法です」(国際航業 戸田真理子さん)

遠隔生産管理の課題解決へ衛星データの活用法を模索

シェードツリーの面積推定という衛星データの活用に向いている作業で成果を確保しつつ、さらにコーヒーの営農支援をも模索しているのが特筆すべき点だ。

「気候変動への対応として森林を増やすという目標もありますし、もうひとつ、衛星リモートセンシングを活用する営農支援の目的もありました。コーヒー栽培には、『カットバック』という、年数が経って成長した木を切り返したり植え替えたりして木の活力を高め、もう一度成長させ直す作業があります。この作業への活用も今回の取り組みの目標でした」(UCC上島珈琲 日比さん)

衛星データは、コーヒーの木を若返らせる大事な作業「カットバック」に効果的だったという。では、どのような効果があったのだろうか。

「当初このカットバックを進めるにあたって、コロナ禍で渡航が困難になっている事情が課題として立ちふさがってきたのです。ジャマイカの農園では、カットバックを含む大規模なリノベーションを始めていたのですが、進行状況を確認しようにも、月に1回のWebミーティングだけでは細かいところが把握しきれませんでした。コロナ前でしたら、年に2回くらいは現地に行って細かい状況まで肌で感じることができたのですが、オンラインですと写真を撮って送ってもらうことでしか現地の様子を目で見られない。確認できる場所も限定的で、10カ所ほどの木の写真を見て「ここは課題がありそう」と挙げるような、もどかしい議論しかできませんでした。問題が発生してから気づくようなこともあり、俯瞰的なデータや画像がほしいとより感じるようになりました」(UCC 日比さん)

最初の成果はハワイのコーヒー農園

海外のコーヒー農園とのコミュニケーションをもっと深くしたい、使えるものならなんでも使いたい、という切迫感が増してきたところで、衛星データというツールの存在が浮上してきた。最初に成果が上がったのは、ジャマイカと同じようにリノベーションを進めていたハワイのコーヒー農園だったという。

「ハワイの直営農園では10ヘクタール程度を4人の現地作業員が管理していますが、この人数でも木を1本1本見られるわけではないですね。そこで、衛星データから情報を引き出し現地とのコミュニケーションの土台にして、見えていないところを突き詰めつつ、現地への具体的な指示をしていこうということになりました。もともとハワイの農園では土壌改良と木の置き換えを予定していて、標高の低いところから高いところへと順番に作業を進めていく予定でした。ところが、衛星データから農園の一部に木がかなり弱っているエリアが見つかったのです。そこで優先度を変えて、対応を急ぐところから進めることにしました。定期的に作業の進捗が確実に見えるという点で、衛星データの意味があると感じていますね」(UCC上島珈琲 日比さん)