オートデスクが開催するデザインとものづくりの年次カンファレンス「Autodesk University 2022」は、オンライン開催に加え、3年ぶりにオフライン形式でも開催されている。アメリカ・ルイジアナ州ニューオリンズの会場では、基調講演やスペシャルセッションなどが行われる予定だ。
建設・製造・メディアエンターテインメントなどの業界から多くの注目を集めるイベントを前に、オートデスクのCEOを務めるAndrew Anagnost氏に話を伺った。BIMの普及で後れを取る日本市場の見通しや、久々のオフライン開催を迎えるAutodesk Universityへの期待が語られた。
建設現場でのニーズが世界的に広がるBIM
オートデスクは、2Dおよび3Dでの作図や設計に使用できるCADソフトウェアの「AutoCAD」や、建築・エンジニアリング・施工向けのBIMソフトウェア「Revit」などの提供を行っている。
BIM(Building Information Modeling)とは、コンピュータ上で作成した3次元のデジタル建築モデルを用い、コストや管理情報などのデータを追加することで、建物の設計や施工、維持管理までのさまざまな工程で情報活用を行うソリューションだ。
Anagnost氏によれば、建設の現場においてBIMの活用は世界的に広がっているという。
「予定通りに作業を進行させたい、よりサステナビリティに配慮した建設を行いたい、建設におけるコストをなるべく低減させたい、などのニーズが増大している。特にビルやインフラ設備の建設においては、サステナビリティに対する需要が非常に高まっていて、現場からの『BIMを使いたい』という声が大きくなっている」とのことで、現在は2D図面を使っている現場でも、いずれ3Dに転換していくだろうと見通しを語った。
後れを取った日本でもBIMの普及が拡大中
「世界的に活用が広がっている」とされるBIMだが、Anagnost氏が「確かに日本市場でのBIM普及はまだ初期段階だ」と語るように、日本の建設業界では現状あまり普及していない。しかし彼は、「その状況も急速に変わりつつある」と続ける。
「新型コロナの感染拡大直前に日本に訪れた際、エンジニアだけでなく建築のオーナーからもBIMに対する強い興味や期待が感じられた。また、日本政府もBIMを活用した事業を進めるなど、積極的な動きを見せている印象だ」
このように語り、日本からのBIMに対する期待は大きいとするAnagnost氏。その導入拡大の先には、BIMデータのクラウド活用という課題を見据えているという。BIMデータを使用するだけでなく、クラウドを介してそのデータをどう活用するかに対してもすでに注目が集まっており、今後ますます関心が高まると推測する。
今後のクラウド活用促進に向けた礎として、BIMに先んじて採用が広がった製造業における3D CADがあるという。CADで3Dデータを作成しクラウド上で管理する体制は長年の実績を重ねており、「製造業のデジタル化から学ぶ形で、建設業界でもBIMデータのクラウド連携が進められるだろう」とのことだ。
信頼や共感を得るには対面での会話が不可欠
3年ぶりにオフラインでの開催となるAutodesk University 2022は、2022年9月27日(日本時間28日)に開幕した。会期前の来場登録者数は約9000人にのぼり、コロナ禍の以前をしのぐほどの数になっているという。加えて、オンラインでの参加についても約3万人が視聴登録を行っているとのことで、Anagnost氏も「我々の予想を上回る注目と期待が集まっている」と感じているという。
オートデスクとしては、「現在我々が何に取り組んでいて、次世代のソリューションとしては何を提供しようとしているのか、そのために何に取り組んでいるのかを発信していく場になる」とのことで、そのコミュニケーションが対面して行えることに大きな期待を抱えているという。
Anagnost氏は、ここ数年の同イベントがオンライン開催だったことについて、「リモートが強いられる環境下でもうまく仕事を進めることはできていた」とするものの、その一方で「信頼や共感を得るためには、フェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションに勝るものはない」と語った。
また、イベント参加者同士でも「ほかのユーザが何に成功し、何に困っているのかについて対面でコミュニケーションがしたいはずだ」と予想し、そういった活発な交流を醸成するためにも、対面でのイベントは不可欠だとした。
今後5年間注力すると断言した分野とは
オートデスクとしての今後の注力分野について、Anagnost氏は再び「クラウド活用」という言葉を挙げ、このように続けた。
「現状BIMデータは、基本的にデスクトップベースで使用されている。クラウドを活用してこれらのデータを共有することで、1つのデータセットをもとにさまざまな場所や視点で働くことができるようになる。このようにクラウドを通じてデータをシームレスに活用することによって、人の作業もデータもより効率的な活用に近づくはずだ」
今後5年はこのクラウド活用に注力していく予定とのことで、同様のメッセージをAutodesk University 2022でも積極的に発信していくという。3年ぶりのオフライン開催となる同イベントで、どのような反応が得られるのか。Anagnost氏の言葉には、その期待が垣間見えた。