光熱電効果では、光照射によって上昇したグラフェン中の電子の温度に応じて電流が流れ、高速光-電気変換の実現には、光照射のON/OFFに電流が遅延なく追随できるデバイス構造と、その電流を高速で読み出す技術が鍵となるとする。
そのため今回の研究では、一般的に用いられている金などの金属材料ではなく、酸化亜鉛(ZnO)薄膜をゲート材料として用いることで、グラフェンとゲートとの間の静電結合に由来する電流遅延を取り除き、電流読み出しにオンチップTHz分光技術が適用された。
その結果、グラフェン光検出器が本来持つと期待されていた200GHz以上の高速動作(今回は220GHz)を実証することに成功したという。また、品質の異なるグラフェンを用いて作製した光検出器の特性を比較することで、動作速度と感度にトレードオフの関係があることが示されたとする。
さらに、これらの結果の解析により、グラフェンにおける光-電気変換プロセスが解明されることとなった。特に、これまでの常識とは異なり、電流の応答時間は光検出器の大きさにほとんど依存しないこと、光照射後に電流が発生するまでの時間を電荷密度によって100フェムト秒以下から4ピコ秒以上まで大きく変化させることが可能なことが示されたという。この成果は、学術的に重要であるだけでなく、情報処理やセンサなどの用途に合わせて、グラフェン光検出器を設計するために不可欠な情報だと研究チームでは説明する。
なお、今回の成果は、広帯域高速光検出器としてのグラフェンの潜在能力の高さを示すものとなるが、実験に使用されたグラフェンはグラファイトから剥離したものであり、量産化には不向きだという。ただし、一般的に大面積で成膜されたグラフェンの品質は剥離によって得られたものより劣るが、成膜技術の発展により、その差は年々縮まりつつあるとされており、研究チームでは今後、量産化を可能にする大面積グラフェンを用いた光検出器の評価を行っていくとしている。
また、グラフェンをはじめとする2次元物質(単層または数層の原子層物質)を積層することで、自然界に存在しない物質を創造する研究が盛んに行われていることから、こうした技術を駆使することで、さらなる高速動作を実現する物質の探索を行っていくともしている。