これまでにブレーザーなどで観測されたQPOは1か月以上の時間スケールで起こり、ジェットやその磁場の螺旋構造に起因すると解釈されてきた。今回とかげ座BLで観測されたQPOでは、明るさと偏光度に相関が見られないことから、強い乱流に伴うものであることが示唆されるとする。
また光は大きく偏光しており、明るさと偏光度は類似する時間スケールを示すことから、その起源はジェットにあると推定された。可視光とガンマ線の明るさの変動は強く相関していて遅延が見られないことから、それらの発光源は共通であることが示唆されるもしている。
さらに、米国国立電波天文台の超長基線電波干渉計VLBAによる周波数43GHzの電波観測が行われ、およそ0.1ミリ秒角(現地において0.42光年の距離に相当)の解像度で撮像が行われたところ、とかげ座BLのジェットの構造として、静的な電波コアA0と、いくつかの準静的な塊(ノット)成分A1~A3を確認。これらの成分は、ジェットとその周囲の圧力の違いに起因する斜め衝撃波の一連の流れと解釈されるという。
加えて、1年あたり3.32ミリ秒角(光速の約15倍に相当するが、見かけ上のもの)で動く、別の明るいノット成分Kも発見。ノットKはアウトバーストの最初の最大光度時に、大質量ブラックホールから約16.3光年の距離に位置するノットA2を通過している。そこでは螺旋磁場によるプラズマの圧力が支配的であり、ジェットの内部で電流駆動型の磁気流体力学不安定性の一種である「キンク不安定性」が成長するのに適した物理的状況となっているという。
また、実際に増光時のVLBAの電波画像にキンク不安定性の大きな捻じれが捉えられていたとする。これらを踏まえ、約13時間周期のQPOは最内縁ジェットの螺旋磁場を破壊するキンク不安定性によって引き起こされたことが考えられると研究チームでは説明しているほか、同様にアウトバーストの後半に現れた約4日周期のQPOも、時間とともに成長した捻じれの大きさの現れと説明できるとしている。
一方でアウトバーストの前半に現れた約2週間のQPOは、ノットKがノットA0からA3を次々に通過した際に引き起こされたことで説明できるとしており、これらの結論は、ブレーザーの短時間QPOを駆動する主要な機構がプラズマの不安定性であることを支持しているとする。
なお今回の研究結果について研究チームでは、長らく議論の的になっていた、数日から数時間程度の時間スケールで生じるブレーザーの短時間QPOの発生機構について、駆動する主要な機構がプラズマの不安定性であることを示唆したものとしており、大質量ブラックホールが引き起こす大規模な宇宙の活動現象の背後に潜む物理学の解明につながる成果だとしている。