日本原子力研究開発機構(原子力機構)とJ-PARCセンターは9月6日、気体の吸着・吸収性質の「ゲッター性能」を持つチタンを材料として真空容器を作ることで、そのまま電源不要の超高真空ポンプとして活用する技術を構築し、その応用例として電子顕微鏡の真空性能が約10倍に向上することを実証したと発表した。
同成果は、原子力機構 J-PARCセンターの神谷潤一郎研究主幹、原子力機構 原子力基礎工学研究センターの大久保成彰研究主幹らの共同研究チームによるもの。詳細は、9月11日から開催される真空に関する国際会議「The 22nd international vacuum congress(IVC-22)」にて発表される予定だという。
真空装置では、真空容器の壁や真空内の機器の表面に吸着した気体が、常に真空中に放出されているため、装置を超高真空にするには、排気速度が大きな真空ポンプで、真空容器内の気体を排気し続ける必要がある。そのため、真空ポンプの大型化やそれに伴う消費電力の増加といった点が課題となっていた。
そこで研究チームは今回、チタンが持つゲッター性能に着目することにしたという。チタンで作られた真空容器の内側表面を改質することで、真空容器の内壁にゲッター性能を持たせ、容器自体を気体溜め込み式真空ポンプとして機能させる技術の開発に取り組むことにしたとする。
通常、チタンの表面は酸化チタン膜(酸化膜)に覆われているためゲッター性能はない。そこで今回の研究では、表面加工方法であるスパッタリング法を用いて、チタン製真空容器の内側表面を覆う酸化膜の除去を実施。その結果、チタンを露出させたことで気体の吸着・吸収が可能となり、真空容器自体を気体溜め込み式真空ポンプとして機能させることに成功したという。
しかし、これだけでは真空容器を大気開放すると再度酸化膜が表面を覆ってしまい、ゲッター性能が失われてしまうため、チタン製真空容器の表面の酸化膜をスパッタリングで除去した後に、ゲッター性能を持つ金属(ゲッター材料)をチタンの表面上にコーティングして保護するという、表面改質手法を開発。これにより真空容器を大気開放しても、真空下において約200℃で1日程度加熱してから常温に戻すという簡単な処理(活性化)で、真空容器が再度ゲッター性能を持つことが可能となったとする。