(前編はこちら)

前編ではCerence DRIVEラボのドライビングシミュレーターについてご説明しましたが、今回は、シミュレーターのソフトウェアとハードウェアについて具体的なカスタマイズ事例を紹介します。

セレンスは、2022年1月、CES2022のブースにて車内アシスタント「Cerence Co-Pilot(セレンスコパイロット)」のデモを展示しました。

これは実際のカーシートを備えた2人乗りのプラットフォームで、湾曲した大きなダッシュボード、ステアリングホイール、ペダル、およびナビゲーションディスプレイを保持するボディを完備した高度な没入型ドライビングシミュレーターです。

  • 車内アシスタント「Cerence Co-Pilot」

このシミュレーターの構築は多大な労力を要し、輸送には物流上の課題もありましたが、来場いただいた方々に新しいドライブ体験を提供することができ、それだけの価値は十分にありました。

  • 車内アシスタント「Cerence Co-Pilot」

テレビやスピーカーをはじめ、通常の音声アシスタントなどの多くの家電製品は、企業が製品の使用環境を再現し、見本市のブースで適切に展示することができ、製品を顧客のリビングルームなど思い通りの場所に配置できます。

しかし、ドライバーと同乗者をサポートするCerence Co-Pilotでは、使用環境の再現は容易ではありません。ブースの来場者にプロアクティブAIを紹介するためには、実際とほぼ同じ運転状況が体験できる運転シミュレーションを作成する必要があります。そのために、前編で紹介したドライビングシミュレーションを設計、実装し、加えてマイクアレイや音声認識装置、視線追跡カメラなど、他の多くのコンポーネントを運転シミュレーションに統合したインタラクティブなダッシュボードを作成しました。

これにより、Cerence Co-Pilotの画期的な機能を展示できる最適な環境が整い、それを活かして、仮想現実上に実際の運転体験を構築するセレンス製品の展示や新製品およびコンポーネントのラピッドプロトタイピング、また、実環境とそっくりな仮想環境でのユーザー調査という3つの重要な取り組みも可能になりました。

仮想現実上に実際の運転体験を構築

セレンスのプロアクティブAIは、運転中のドライバーにインテリジェントな提案を行うために3タイプの情報を検討します。1つ目は、現在のバッテリーレベル、タイヤの空気圧、インフォテインメントの使用状況などの車両センサーからの情報、2つ目は、車両の目的地の交通状況や最新の天気予報などのクラウドサービスの情報、そして3つ目は、カレンダーの予定などドライバーが共有する個人情報です。

シミュレーションでは、Cerence Co-Pilotがドライバーに提供するインテリジェントな意思決定やアクションを、現実的かつ安全な環境で直接体験することができます。交通や天候など多くの要素を仮想環境内で制御し、コパイロット機能が先回りしてドライバーをサポートする状況を作ることもできます。来訪者は映像での製品紹介ではなく、実際にシミュレーションを利用することでCerence Co-Piotを短時間で実体験でき、車両を自在に操作することができました。

新製品およびコンポーネントのラピッドプロトタイピング

ドライビングシミュレーターは、車内アシスタントに関心を持つ来訪者や顧客だけでなく、セレンスのチーム開発にも役立ちます。最良の製品を設計、開発するには、新しいアイデアと新機能を迅速にテストする必要があります。新しい技術とソフトウェアのプロトタイプを実際の車両に実装しつつ、路上で安全に運転できるようにするために必要な労力は計り知れません。このシミュレーターにより現実的な運転状況を再現しつつ安全性を確保した環境で、迅速に新技術を統合できます。また、開発の早い段階での適切な判断から製品を改善し、いち早く市場に投入することが可能になります。

実環境とそっくりな仮想環境でのユーザー調査

シミュレーターはユーザー調査にも利用できます。ユーザーの声は貴重であり、お客様の要望やニーズを満たす製品を開発する上で重要です。没入型でリアルなドライビングシミュレーターでのユーザー調査は、実際の車両での調査を部分的に代替するだけでなく、従来、実車両ではできなかった調査も可能です。ドライビング環境全体がシミュレーターの管理下にあるため、参加者を危険な状態に陥らせることなく、様々な状況のテストが可能です。

事故後に必要とされる機能をテストしたい場合、交通状況や天候を操作し、物理的に正しい方法で事故の結果をシミュレートすることができます。例えば、コンピューター制御の自動車を交差点で参加者の車に衝突させ、Cerence Co-Pilotがサポートするという、実際の自動車では不可能なテストも可能です。参加者に事故を体験させることで、この機能の有用性についてより価値ある評価が得られます。

1つのシミュレーターがもたらす無限の可能性

これらの取り組みは、仮想環境を完全に制御し、容易に新しい技術を統合できる柔軟なドライビングシミュレーターによって可能になりました。シミュレーションは物理的な世界での実際の体験を完全に置き換えることはできませんが、現実の世界よりもさらに多くの可能性を提供できます。ドライビングシミュレーターは、セレンスの製品紹介、作成、改善に多くのメリットをもたらしています。

セレンスは、最新のテクノロジーと今後の製品をドライビングシミュレーターに統合する作業を進めています。今後、より多くの方に車内体験の未来をご紹介できる日が来ると確信しています。

著者プロフィール

ガブリエル・ハース(Gabriel Haas)
Cerence
シニアユーザーエクスペリエンス プロジェクトマネージャー
ドイツ・ウルムのCerence DRIVEラボにてチームを統率