名古屋大学(名大)と東京海洋大学は8月29日、フルデプス有人潜水船「リミッティングファクター号」(母船プレッシャードロップ号)による、日本周辺の超深海海溝における地質と地形および超深海の生物観察を目的とした、海溝最深部調査「Ring of Fire Expedition 2022」(8月5日から9月19日まで実施)の一環として、名大大学院 環境学研究科の道林克禎教授が、8月13日に小笠原海溝の最深部9801mに潜航し、それまでの日本記録だった東京水産大学(東京海洋大の前身)の故・佐々木忠義教授(東京水産大学 元学長)の持つ記録を60年ぶりに更新したことを発表した。
今回の調査は、西オーストラリア大学 深海研究所のアラン・ジェミイソン教授を主席研究者とし、東京海洋大学 海洋資源環境学部の北里洋博士(デンマーク 超深海研究所兼任、日本側研究代表)、デンマーク 超深海研究所のアンニ・グルッド氏、名大の道林克禎教授、海洋研究開発機構 地球環境部門の藤原義弘上席研究員(東京海洋大大学院 海洋科学技術研究科 客員教授兼任)、東京大学大学院 理学系研究科の波々伯部夏美氏、日本海洋事業の石川明久氏らの国際研究調査チームによるもの。
「超深海(ヘイダル)」と呼ばれる、6000m以深の海はその多くが西太平洋の海溝に広がっているが、超深海はとてつもない水圧がかかるため、高真空の宇宙よりも過酷な環境といわれる。超深海に到達できる有人の潜水艇は限られており、調査はこれまでのところあまり進んでいない。
日本は4つのプレートがひしめき合っているため、周辺の海には海溝が多い。今回の調査は、そうした日本周辺の超深海海溝における地質と地形および超深海の生物観察を目的としたもので、Ring of Fire Expedition 2022の前半の調査は、琉球海溝、伊豆-小笠原海溝、日本海溝などの最深部周辺が対象で、その生物・地形・地質の調査が8月5日~28日までの24日間にわたって実施された。
今回の調査で用いられたリミッティングファクター号は、民間調査会社Caladan Oceanic社によって建造された2人乗りのフルデプス有人潜水船で、2018年から運用が開始され、今回もパイロットを務めたヴィクター・ヴェスコヴォ氏によって世界最深部のチャレンジャー海淵(水深およそ1万920m)をはじめとして、太平洋、大西洋、インド洋、北極海、南極海の五大洋すべての最深部に潜航したギネス記録を持つ。現在、海洋の最深部まで潜航できる有人潜水船は、このリミッティングファクター号と、中国の奮闘者号の2艘だけだという。