マネーフォワードは8月24日、メディア向けに説明会を開き、インボイス制度に対応した中堅・エンタープライズ企業向けの請求書受領システム「マネーフォワード クラウドインボイス」の提供を開始すると発表した。
中小企業の認知状況が3割のインボイス制度
説明に立った、マネーフォワード 執行役員 マネーフォワードビジネスカンパニーCSOの山田一也氏は「現状では多くの企業で請求書を紙で一元管理しており、これをデジタルで一元管理するというシステムが整っていない企業も多かったため、新システムの開発を進めた。2023年10月に開始されるインボイス制度の中小企業における認知状況は3割となっており、認知していてもシステム面で対応済みの企業はいまだ限定的であり、インボイス制度の導入に向けてクラウドサービスの需要が喚起されることを想定している」と述べた。
マネーフォワード クラウドインボイスは中堅・エンタープライズ企業向けの請求書受領システムだ。
新システムはメール添付(9月リリース予定)や郵送を含め、あらゆる請求書を一括受領し、AI-OCRとオペレーター入力による正確で迅速なデータ化し、請求書のオンラインでの一元管理が可能。
請求書のデータを利用中の基幹システムに柔軟に連携(同)することで、会計業務や支払業務に活用することができ、改正電子帳簿保存法やインボイス制度にも対応している。
また、電子帳簿保存法の「電子取引要件」「スキャナ保存要件」に沿った保存を可能とし、インボイス制度対応における登録番号の確認(2023年4月リリース予定)、仕入税額控除対象かの識別も可能としている。
インボイス制度と改正電子帳簿保存法に対応した新システム
電子帳簿保存法は、郵送など紙で送られてくる請求書をスキャンし、データ保存する際のスキャナ保存要件と、メールやWEBサービスなど、データで送られてくる請求書を保存する際の電子取引要件がある。
電子取引要件については今年1月に改正され、電子で受け取った領収書や請求書などは電子データのまま保管することが義務(2023年12月まで宥恕期間)付けられている。電子データで送付された請求書を印刷して保管することが認められないため、従来のようにすべての領収書や請求書を紙で一元管理することができなくなる。
領収書や請求書の一元管理を行うためには、電子データで保存・管理をしなければならないことに加え、インボイス制度の導入で適格請求書の必要要件である適格請求書発行事業者の登録番号を確認し、消費税区分を把握する必要があるため、作業に負担がかかるといった課題があるという。
また、中堅・エンタープライズ企業が導入している基幹システムでは、システム改修期間やコストなどに起因し、電子帳簿保存法やインボイス制度対応が難しいといったケースも発生しており、インボイス制度に関わる請求書の受領におけるサービス導入ニーズが高まっている。
こうした中、中堅・エンタープライズ企業に向けた請求書受領領域のサービスラインナップを拡充し、基幹システムとの連携も可能なマネーフォワード クラウドインボイスの提供を開始するというわけだ。
インボイス制度、3つのポイント
なにかと対応が必要となるインボイス制度だが、山田氏は制度のポイントについて以下の3つを提示する。
1. 仕入税額控除
2. 課税事業者の登録番号
3. インボイスの電子化
仕入税額控除とは、課税事業者が納付税額を計算するため「売上に係る消費税」と「仕入れに係る消費税」の差分を算出することだ。仕入税額控除を受けるためには従来の“「請求書」を原則「適格請求書(インボイス)」”に代える必要がある。
課税事業者の登録番号に関しては、これまでの(1)発行者の氏名または名称、(2)取引年月日、(3)取引内容、(4)受領者の氏名または名称に加え、(5)軽減税率適用の表記、(6)適用税率ごとの区分表記、(7)インボイスの登録番号、(8)適用税率、(9)適用税率ごとの消費税額の記載が必要となる。
また、今年10月~2023年3月までの間に適格請求書発行事業者としての登録が必要なほか、免税事業者は登録番号を取得することができないという。
インボイスの電子化に関しては、請求書の保管業務が従来の受領側のみならず、送付側に対しても課されることから、制度導入後に仮に紙で保管する場合、紙の量が2倍になる。そのため、請求書の発行・保存におけるクラウド対応が不可欠になる。
山田氏は「インボイスを電子で発行・保存することで手間を軽減できることに加え、すべてをデジタル化することで一元管理も可能となり、紙での受け取りと比較してインボイスの情報をデータ化することが容易になる」と説明した。
新システムの位置づけと今後の展望
続けて、山田氏はインボイス領域のプロダクト分類について説明した。同氏は現状のインボイス領域を売り手企業側(請求書発行側)における社内基幹システムで①債権請求管理業務(請求書を作る)、取引先との連携システムで②インボイス送付(請求書を送る)、買い手企業側における取引先との連携システムで③インボイス受取(請求書を受け取る)、社内基幹業務システムで債務支払管理業務(請求書の確認・支払い)に分類している。
個人事業主・中小企業向けには現状のサービスに対応できるものの、中堅・エンタープライズ向けでは②と③に対応するため、マネーフォワード クラウドインボイスにより国税庁のAPIと連携し、自動で適格請求書発行事業者かを判別し、仕入税額控除の対象か否かを判定できる。
同氏は「すでに自社の基幹システムとして他社のERPを導入しており、変更できないことが多いことから、外付けでデジタルインボイスを送付・受け取る機能だけをアドオンで既存の基幹システムで利用することも可能だ。そのため、これまでのクラウドERPとは一線を画しており、幅広いお客さまに利用してもらいたいと考えている」と話した。
現状では、取引先からさまざまな形式で送付されており、インボイス送付の多様化が見込まれることから、まずはインボイス受取のみから提供し、送付機能は今後開発を予定している。
ただ、すべてのユーザーが同社サービスを利用しているわけではなく、他社の請求書サービスを利用しており、フォーマットが統一されていないため、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)が国際規格の「Peppol(ペポル)」に準拠して標準仕様の策定を進めている。
こうしたフォーマットの違いを、送り手と受け手のアクセスポイントで統一されたフォーマットに変換する認定の事業者をアクセスポイントプロバイダーと呼んでおり、Peppolは電子文書をネットワーク上でやりとりするための文書仕様、運用ルール、ネットワークの国際規格であり、海外ではPeppolをベースとしたデジタル経済圏の整備が進みつつある。
山田氏は「今後、アクセスポイントの開発を進め、アクセスポイントプロバイダーを目指している。これにより、Peppolネットワークに直接アクセスできることに加え、請求書の発行から受領まで一気通貫したサービスの提供が可能になる。請求前後の業務の自動化を可能とし、自社サービスの機能更新と、それに伴うデジタルインボイスの送受信に迅速に対応できるようになる」と力を込めていた。