りそなグループは、言わずと知れた日本5大銀行グループの一角を占める巨大銀行だ。日本では唯一の信託併営銀行グループであり、ホールディングス傘下にりそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらいフィナンシャルグループなどを置く。二大都市圏に経営資源を集中しており、全国に815の有人店舗を展開する(2022年3月末現在)。

そんなりそなグループは、重要な経営戦略としてダイバーシティ・マネジメントを掲げており、さまざまな取り組みを行っている。

7月20日に開催された「TECH+セミナー 労務管理 Day 2022 Jul. 法改正で更に変わる! 多様な働き方と労務管理」に、りそなホールディングス 人財サービス部 ダイバーシティ推進室 室長の島田律子氏が登壇。同グループにおけるダイバーシティ推進の流れと成功のポイントについて語った。

“りそなショック”で始まったダイバーシティ推進

りそなグループがダイバーシティを推進するきっかけとなったのは、2003年に起きた“りそなショック”だ。約2兆円の公的資金が注入され、実質国有化されたことによる不安から多くの男性社員が退職。その結果、それまでの男性目線中心だった経営が見直され、女性やシニア層、パートナー社員らが活躍しやすい環境が整っていったのだ。

この流れに呼応したのが経営層である。

「国有化後、経営からは女性活躍に関する強い信念とメッセージが発信されました」と島田氏は話す。

「お客さまの半分は女性です。だからこそ女性の意見を活かした改革が必要であり、女性が活躍できる環境づくりが企業価値の向上につながります」(島田氏)

  • 経営層から発せられた女性活躍に関するメッセージ

こうしてダイバーシティという言葉がまだトレンドになる前から、りそなグループはダイバーシティを推進。その結果、なでしこ銘柄選定や、女性ライン管理職比率30%達成などの成果を上げてきた。

保守的なイメージを持たれやすい銀行という世界で、なぜりそなグループはこれほどまでにダイバーシティ推進を成し遂げられたのか。そのポイントとなる取り組みについて見ていこう。

人事制度の大幅改定で働き方の多様化を推進

まず、人事制度の改定だ。

りそなグループでは、2004年から総合職や一般職といった職制を廃止しており、フラットな職務体系を実現している。従来は担当者からマネジャー、副支店長、支店長と一本道で出世していく人事制度だったが、2008年に「キャリアフィールド制度」を導入。マネジャーや経営層へ向けてステップアップしながら、同等級に位置付けられる「プロ人材(プロフェッショナル職)」へのキャリアチェンジも行える仕組みだ。

りそなグループが人事制度改革で目指すのは、多様な人材が活躍し、多様な価値観が混ざり合う環境。会社だけでなく個人も成長できることや、企業価値向上だけでなく働きがいを高めることをも目標としている。つまり、「ダイバーシティ&インクルージョン」の実現だ。

この目標を達成するために、りそなグループは2021年4月から人事制度をさらに改定した。

「全員が何らかのプロを目指す体系を構築し、渉外やサービス、プライベートバンカー、ITスペシャリストなど、19のプロフェッショナルコースを用意しました。従業員はいずれかのコースを選択し、自らのキャリアをつくっていきます」(島田氏)

また、全員が60歳で定年を迎えるのではなく、60~65歳の間で自由に定年を決める「選択定年制」も採用。若手にも重要な仕事を任せるなど、“全世代活躍推進”を掲げて制度を構築している。

さらに新たな職種として、勤務時間または業務範囲を限定できる「スマート社員」も導入している。出産や育児で一時的に職場を離れた後も、勤務時間限定を指定することで復帰しやすくしたという。

職種間での転換制度も用意し、本人申告により社員・スマート社員・パートナー社員の職種で転換が可能になる。働き方に多様性を持たせることで、ライフイベントとの両立が容易になるわけだ。

また、登用制度にもスマート社員の存在が活きている。これまではパートナー社員から正社員への登用ルートしかなくハードルが高かったが、これまで培ってきた知識・スキルを活かした業務範囲限定スマート社員を挟んで正社員へとキャリアチャレンジするルートが生まれたのだ。

  • りそなグループにおけるスマート社員制度