東京工業大学(東工大)は、ペンギンの体表を模倣した「リブレット」(微小な列状突起の集合で、適切な条件下で物体表面の乱流摩擦抵抗を低減する機能を有する)フィルムを製作し、流体摩擦抵抗を低減する効果を明らかにしたと発表した。

同成果は、東工大 工学院 機械系の齋藤遼輔大学院生、同・中博人准教授、山階鳥類研究所の山崎剛史研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、進化によって獲得された生物の持つ機能に関する研究を扱う「Bioinspiration & Biomimetics」に掲載された。

流体力学の観点から、ペンギンの羽毛の形状が流体抵抗に与える影響について調査されたことは、これまでほとんどなかったという。そこで研究チームは今回、「羽毛が体表に形成する列状の凹凸形状がリブレットとして機能することで、流体摩擦抵抗を低減する」という仮説を立てたほか、ペンギンは急旋回などの俊敏な泳ぎをすることから、抵抗低減効果は流速方向の変化に強いことを期待することにしたという。

従来のリブレットに関しては、サメのウロコから発想されたものがあるが、ペンギンのものとは形状的・機能的な違いがあるため、今回はまず、ペンギンの全身標本および採取した羽毛を用いて、体表面の毛の間隔と断面形状の計測を行うことからスタート。毛の間隔の計測には、山階鳥類研究所が所蔵するキングペンギン、フンボルトペンギン、コガタペンギンの剥製標本の背中が用いられた。隣り合う毛の間隔「s」は種による大きな差はなく、約100μmほどであったという。

また、毛の断面形状の計測には、長崎ペンギン水族館から提供を受けたジェンツーペンギンの背中の羽が用いられ、毛の断面形状は台形に近く、幅約60μm、高さ30μmであること、ならびにこの台形断面は、従来のリブレット研究で良いとされてきた上端が鋭い板断面や鋸歯断面とは異なっていることが確認されたとする。

さらに、流体力学的な毛の無次元間隔「s+」が遊泳速度から算出された結果(s+≒8)、従来のリブレットが最大抵抗低減率を示す間隔(s+≒17)に比べて小さいことが判明。加えて、実寸大の微小な模倣リブレットをcmスケールの大面積に製作する方法として、紫外線レーザスキャンによるポリイミドフィルムの溝加工を採用。抗力計測実験でペンギンの体表の流れを再現するために、サイズを縮小したリブレットが製作された。