シスコ アジアパシフィックジャパン&チャイナのデイヴ・ウェスト(Dave West)プレジデントが来日し、単独インタビューに応じた。ウェストプレジデントは、2021年1月まではシスコジャパンの代表執行役員社長として、日本における事業成長を牽引。現在、日本を含むアジア太平洋および中国を担当している。シスコの最新の取り組みとともに、日本の外から見た日本企業の課題や、いま取り組むべきテーマなどについても聞いた。

  • シスコ アジアパシフィックジャパン&チャイナのデイヴ・ウェストプレジデント

今回の来日の狙いはなんですか。

ウェスト氏:2021年1月に日本を離れ、シンガポールに移ったときはコロナ禍であり、お客様やパートナー、社員にも、きちんとしたご挨拶ができないままでした。2022年6月には、シスコジャパンの30周年のイベントにあわせて一度来日したのですが、滞在時間はわずか18時間でしたから(笑)、今回は、1週間をかけて、日本のお客様やパートナーと、直接お会いして話をする機会を得て、さまざまな情報交換をさせていただきました。

米本社では主要な国に対して、リーダーシップチームメンバーによる「エグゼクティブスポンサー」を配置しており、日本はそのひとつとなっています。日本を担当しているのは、エグゼクティブバイスプレジデントのトッド・ナイチンゲールであり、今回は彼と同じタイミングで来日をしました。本社が日本をしっかりと支援していく姿勢を示すものであり、この機会はシスコジャパンの社長時代を含めて、2年以上待っていたものです。

日本を離れて感じることができた日本企業の課題などはありますか。

ウェスト氏:この1年半で日本は大きく変化したと思っています。その変化は、日本でのビジネスに携わってきた経験者としても、とても誇らしく思っています。振り返れば、東京2020が、まだ準備段階だったときには、政府がリモートワークを推奨し、まずは月1回の実施を促すという状況でしたが、それでも取り組む企業が少ないのが実態でした。この背景には日本の文化や、働き方に対する基本的な考え方、固定化された信念のようなものがあったのではないでしょうか。数年前の日本は、デジタル化という言葉は先行しても、実態が伴っていない状況でした。

しかし、コロナ禍によって、ハイブリッドワークが一気に浸透し、デジタル化の推進が大手企業だけでなく、中堅中小企業にも広がり、自分たちのビジネスを成功させるためには、テクノロジーを活用することが不可欠であるという認識が高まっています。

シスコが実施した「ハイブリッドワークに関するグローバル調査 2022」でも、ハイブリッドワークによって生産性と仕事の質の向上を実感したと回答した日本企業の社員は40%に達しています。ビジネスの成功の根幹にあるのがテクノロジーであることは、すでに日本の企業に浸透しています。

また、デジタル庁が発足し、国民へのサービスにもさまざまなデジタルツールが活用される環境が整い始めているのも大きな変化だといえます。そして、クラウド化が進展しており、あらゆる場面でデジタルサービスの活用が現実のものになっています。かつては、掛け声だけだった「デジタル化」が、行動につながり、現実のものになっていることを感じますし、それは、日本の文化が変わってきたことを意味するのではないでしょうか。もちろん、社内のプロセスやシステムはまだ変革する余地があるのは確かです。次のイノベーションの波にどうつなげるかがこれから大切だといえます。

私は、サステナビリティにおいては、日本が世界的なリーダーシップを発揮していると考えています。政府や企業が、環境に配慮した取り組みをすでにスタートしていますし、ネットゼロに貢献するための製品やサービスの提供も開始しています。

シスコは、2040年までにグローバルスコープ 1、2、3 のすべてにおいて、CO2排出量のネットゼロを達成する目標を掲げています。たとえば、製品そのものもサステナビリティに貢献するために、サプライヤーとも連携し、部品や塗料などを含めて、環境に配慮したものを調達し、エネルギー効率についても追求しています。こうした環境保護への取り組みは、日本の政府とも足並みが揃ったものとなっています。日本の政府が明確な方向性を打ち出し、日本の企業はその実現に向けてサステナビリティに取り組んでいます。こうした日本のサステナビリティの取り組みに対しても、シスコは貢献できると考えています。

シスコの製品ポートフォリオは、ネットワークだけでなく、セキュリティ、クラウド、コラボレーション、ソフトウェア、サービスへと広がっています。シスコに対する期待はどう変化していますか。

ウェスト氏:いままでのシスコのブランドイメージは、高品質で、信頼性が高く、しっかりとサポートが受けられる、強力なネットワーク製品を提供している企業というものでした。そこから離れるつもりはありませんが、それに加えて、ソフトウェアの領域にも乗り出し、それによって、ポートフォリオが広くなるとともに、それぞれの製品がより強くなり、より高い価値を提供できるようになりました。

シスコが提供するプラットフォームによって、いままでよりもシンプルでありながら、多くの製品を横串にして利用できる環境が整い、お客様にとってビジネスにプラスとなる高い価値を提供できます。

たとえば、いままでは、お客様が個別にプロダクトを導入すると、それぞれに設定をしなくてはなりませんでしたが、プラットフォーム化したことで、設定を自動化したり、運用や管理をシンプルにしたりといったことができます。お客様のニーズがどこにあるのかを知り、それに素早く対応できるようになっています。

これは、シスコが、ハードウェアベースの会社から、プラットフォームベースの会社に変革したことを指します。それによって、お客様のビジネスの成功を支援する役割を担うことになります。

また、重要なのは、シスコの製品やプロダクトを、セキュリティが担保された形で使ってもらえるようにしていることです。シスコは、次世代型セキュリティアーキテクチャーを提供することを重視し、さまざまな要素を可視化すること、さまざまな脅威を防御し、インシデントが発生した際にも適切な対応を図ることに力を注いでいます。

デジタル化が進み、テクノロジーが使われ、ハイブリッドワークが進展し、公益企業もITを活用する必要に迫られ、それらをサイバー攻撃からしっかりと守るセキュリティが重視されています。ITは、何をするにしても必要であり、いつでもどこでも使えるような重要なソリューションとなっており、企業の成功には不可欠なものとなっています。セキュリティに重要性はますます高まっており、そこにもシスコが貢献できます。

いま、シスコがお客様から求められていることは、次の4つに集約できます。

ひとつめは、アプリケーションの再構築において、アプリケーションレイヤーまでの可視化を実現すること、2つめはインフラの変革において、ソフトウェアデファインド型インフラを提供し、自動化やオーケストレーションを実現すること、3つめにはエンタープライズセキュリティであり、どんな環境から利用しても高いセキュリティ環境を実現すること、そして、4つめがハイブリッドワークの支援となります。在宅勤務は、社員が独立した支社で働いているような環境です。

本社と同じセキュリティ環境やパフォーマンス、生産性を実現できなくてはいけません。シスコは、コラボレーションツールの提供だけでなく、それを実現するために必要な接続性や可視化、セキュリティも提供することになります。

日本市場において先行できそうなテクノロジー領域はありますか。

ウェスト氏:5Gですね。とくに、プライベート5Gは、日本が先行する分野になりそうです。私が担当するアジアパシフィックジャパン&チャイナにおいても、日本が試験的な取り組みを行い、その成果をもとに、他の国に展開したいと考えています。工場などの製造分野だけでなく、港湾などの物流分野などの利用が想定されますし、これまではWi-Fiを利用して環境でも、よりセキュアで、高速なプライベート5Gを使いたいといったニーズはこれから顕在化してくると考えています。

また、ロボティクスやIoTでは、もともと日本が最先端の市場ですし、次世代の製造現場とはどういうものかといったことは、日本の企業から生まれてくると確信しています。その成果が、全世界の製造現場のガイド役を示すことになるでしょう。

コロナ禍において、シンガポールから日本や中国、アジア各国を統括するという難しい舵取りを担ってきたわけですが、どんな工夫をして成長を維持したのでしょうか。

ウェスト氏:コロナ禍においては、シスコの社内プロセスにおいて、多くのイノベーションが行われました。たとえば、シスコジャパンをはじめとして、すべての組織が一夜にして、スムーズに、ハイブリッドワークに移行しました。これは、ハイブリッドワークを行える仕組みがあったこと、それを行える企業文化があったことが背景にあります。

一方で、コミュニケーションを活性化させることの重要性に気づき、従来以上にオープンな対話を重ねることに力を注ぎました。コロナ禍というこれまでに体験したことがない環境のなかで、社員が関心を寄せたのは、リーダーがどんなメッセージを発信するのかということでした。そして、社員一人ひとりも自分たちの思いを伝えたいという気持ちが高まっていました。

リーダーにとっては、相手の声を聞き、それをしっかりと汲みとって、社員一人ひとりに寄り添うということが、これまで以上に大切な時代に入ってきたといえます。社員一人ひとりが置かれている環境は異なりますが、それらを理解し、最も仕事がしやすい環境を実現することがリーダーには求められ、この約2年間で、それが進化できたと思っています。そして、この2年間を乗り越えたことは、社員にとっても、大きな自信につながり、自律することにもつながったといえます。変化はよい方向につながったと確信しています。

ウェスト氏から、シスコジャパンの社長のバトンを受け取った中川いち朗社長は、2024年度までの3カ年の成長戦略を打ち出し、日本の売上高を、米国以外では世界ナンバーワンに引き上げる社内計画も明らかにしています。上司として、その取り組みをどう評価していますか。

ウェスト氏:素晴らしい仕事ぶりであると評価しています。シスコジャパンが、日本のお客様のデジタル化をしっかりと支援し、ビジネスプロセスにも直接関わりながら、価値を届けられていますし、日本の政府の変革に対してもシスコジャパンが貢献できていると感じています。大切なのはお客様の成功、パートナーの成功にフォーカスすることであり、お客様の課題に対して、適切なテクノロジーや適切なサービスを提供できています。現時点での判定はAです(笑)。そして、これからはその評価を超えてもらいたいと期待しています。

最後に日本の顧客、パートナーに向けてメッセージをお願いします。

ウェスト氏:シスコジャパンが、30年間にわたって、日本でビジネスを展開できたのは、お客様やパートナー企業に支えられたおかげです。さまざまな声をもとに、戦略を立案し、販売およびサポート体制を敷き、それを実行してきました。

シスコは、日本の企業に対して、デジタル化の推進を支援したり、ハイブリッドワークの実現を支援したり、そのためのセキュリティの提供、そして、サステナビリティのための支援を行ってきました。日本市場は、シスコにとって、今後も重要な市場であることに変わりはありません。シスコは、すべての人に、インクルーシブな未来を実現することに向けて、これからも変革を続けていきます。プラットフォームを提供する企業として、日本のお客様やパートナー企業に貢献したいと考えています。