植物にもさまざまな病気があり、中でもジャガイモ疫病は、19世紀アイルランド大飢饉の原因にもなったほどの深刻な植物疫病である。
作物の疫病は、現在でも深刻な被害をもたらしており、これらは卵菌類の疫病菌により引き起こされるものだ。卵菌類とは、不等毛類に属する原生生物の仲間であり、腐生または寄生の生活をするものである。
世界の食料安定供給においては、このような病原菌の生態を解明していくと同時に、作物の病原菌に対する抵抗性機構の解明も重要となってくる。今回は、そんな病害に対する植物の抵抗性を高めるために行った研究について触れたいと思う。
ジャガイモ疫病菌の細胞膜に含まれるセラミドと呼ばれるスフィンゴイド塩基と脂肪酸が結合した高分子には、Pi-Cer Dという種類がある。そしてこのPi-Cer Dは、植物に抵抗反応を引き起こすことが知られている。
そこで、名古屋大学、京都大学、岩手生物工学研究センター、理化学研究所、東京大学らの共同研究グループは、シロイヌナズナと独自に開発した「Lumi-Map法」という最新ゲノム解析技術を用いて、シロイヌナズナがPi-Cer Dを認識して抵抗性を誘導する時に必要な遺伝子の種類を調べたという。
その結果、NCER2セラミダーゼ遺伝子とRDA2受容体遺伝子の2つの遺伝子が必要であることがわかった。
さらに、Pi-Cer DがNCER2セラミダーゼによって、9Me-Sptというスフィンゴ脂質(スフィンゴイド塩基を含む脂質)に分解され、生じたスフィンゴ脂質が植物細胞膜上にあるRDA受容体に結合して認識された後に、抵抗性が引き起こされることがわかった。
スフィンゴ脂質には多くの種類があり、生物の細胞膜に広く存在している。植物に強い抵抗反応を誘導するスフィンゴ脂質は、9メチル構造を持っているが、この構造は植物に存在しない。
そのため、植物は9メチル構造をもつスフィンゴ脂質を外敵の印として認識することで、抵抗性を導くしくみが進化したと考えられる。
研究グループは、今後、9Me-SptとRDA2受容体の結合のしかたとRDA2受容体の働くしくみを詳しく調べることにより、外敵のスフィンゴ脂質に対してより敏感な受容体を開発し、病気に強い作物を作ることも可能であるとした。
今後、さらに研究が進められて世界の食糧危機解決に貢献してくれることを願うばかりだ。