長年にわたって愛されるさまざまな玩具を開発してきたタカラトミー。今回は、そんな玩具のリードカンパニーであるタカラトミーに伺い、本日6月14日から予約が開始されるAIを使った読み聞かせスピーカー「coemo」について、企画に携わった五島安芸子氏と根岸さやか氏に話を聞いた。

  • 左:タカラトミー Moonshot事業部 根岸さやか氏 右:タカラトミー 同事業部 五島安芸子氏

    左:タカラトミー Moonshot事業部 根岸さやか氏 右:タカラトミー 同事業部 五島安芸子氏

企画者は「ママ」、 企画の発端は実体験?

今回発売される「coemo」は、最先端のAI音声合成技術「コエステーション」を活用し、実在の人物の声とそっくりな合成音声で自然な読み聞かせを行い、子育てをサポートする読み聞かせスピーカーだ。

  • 実在の人物の声とそっくりな合成音声で自然な読み聞かせをしてくれる「coemo」

    実在の人物の声とそっくりな合成音声で自然な読み聞かせをしてくれる「coemo」

無料で楽しめるコンテンツは全部で60本。「桃太郎」や「北風と太陽」など、誰もが一度は読んだことがあるであろう日本の昔話や世界の童話から、英語の音楽や睡眠の前のベッドで行う体操まで、コンテンツはバラエティに豊んでいる。

このcoemoの特徴はなんと言っても「吹き込んだ人とそっくりな違和感のない声」。登録した時の声の高さや収録環境によって、再現性には若干バラつきが出る可能性があるものの、吹き込んだ音声データからそっくりな合成音声をAIが作り出してくれるという。

筆者も五島氏の合成音声による読み聞かせを聞かせてもらったが、実際に声のトーンが、かなり忠実に再現されているように感じた。しかも、AIが話していると分かるような不思議なイントネーションのつけ方ではなく、日本語らしい自然な抑揚であるため、すっと耳に入ってくる。

そう感じたのは筆者だけではない。実際に発売を前に、10組の親子を対象に「母親の合成音声で朗読した『赤ずきん』を子どもが聞いて母親の声と認識できるのか」というテストを行ったところ、その内の半分はAIが朗読した音声を「ママの声」と認識したという。

しかも、この声の録音はcoemo本体ではなく、スマートフォンの専用アプリケーションに行うため、本体が近くになくても声を登録することができるという便利な仕様だ。

「私も息子がいて『子どもへの読み聞かせ』は身近なテーマでした。分厚い本を持つのが大変だったり、毎日同じお話を読むのが大変と感じたりする日もあります。そんな時に読み聞かせをcoemoにお願いして、自分も息子もゴロンと横になって楽しめたらな……と考えました。」(五島氏)

  • coemoの企画の経緯を語る五島氏

今回、話を聞いた五島氏と根岸氏は共に子どもを持つ「ママ」だ。世の親御さんや子育てに関わる人の代表として、「こんな商品あったらいいな」「こういうところを解決できたらもっと楽しく育児ができるよね」と、自分自身の実体験や意見をもとにしながら企画開発を進めたという。

そのため、商品のパッケージや製品のデザイン・色使い、機能など隅々まで、子どもと親御さんが喜ぶ工夫が凝らされている。

今回このサービスを取材させてもらって筆者が1番面白いと感じたのは「登場人物の声を分担できる」という点だ。coemoでは、事前に複数人が声を登録しておけば、物語によって出てくるキャラクターの声を誰にするかを選択することができる。赤ずきんを例に挙げるなら、赤ずきんはママ、オオカミはパパ、ナレーターは遠くに住むおじいちゃんといったようにキャラクターの雰囲気に合わせて配役を選ぶことができるのだ。

「まずは身近な人の声で、と思っていますが、今後コロナ禍でなかなか会えない祖父母や遠くに住む親戚の方のコエを読み聞かせで聞かせるという使い方もしていただけたらと思っています。会いに行けなくても、スマートフォンがあれば声のデータを登録することができるので、離れていてもいつでも大好きな人に読み聞かせしてもらうことができます」(根岸氏)

  • coemoの活用方法を説明する根岸氏

目指すは「育児をする全ての人が楽しい社会」

家族の大事な読み聞かせの時間を確保してくれる「coemo」。

しかし、音声合成のための声の登録に時間がかかってしまうようでは、世の忙しい親御さんたちは、せっかくの機能を使うに至らないのではないだろうか?

「今回、コエステーションを採用することに決めたのは『声の登録の手軽さ』です。他社の製品では、声の登録に手間とコストがかかってしまうところ、このコエステーションではスマホで声を約15分程度録音することで、誰でも無料で声の登録をすることができます」(五島氏)

コエステーションは、コエステ社のAI音声合成技術で、身近な人から有名人まで、多種多様な合成音声を生成し、さまざまなデバイスとつなげるサービス。五島氏と根岸氏は、さまざまな音声合成技術のサービスと比較し、育児をしている人が使用する際に1番必要な「手軽さ」を持ち合わせていたコエステーションを導入することに決めたという。

タカラトミーは「coemo」を筆頭に、AIやデジタル技術の活用に力を入れていくという。テクノロジーを活用した製品開発は、コストの感覚や協力する企業において従来の玩具開発と違う側面もあるものの、玩具のデジタル化を「楽しい」と二人は語った。

「これまで、アナログのおもちゃは『アップデートしづらい』という特徴がありました。しかし、「coemo」のようにアプリと連携したデジタル型の玩具は、データを集め、コンテンツを追加していくことができるため、『長く1つの商品を愛してもらう』という新しい玩具の形を広げていくことができると思います」(根岸氏)

また「coemo」は専用のInstagramアカウントも活用して、顧客の生の声を集めたり、情報発信やコンテンツの追加のお知らせなどを発信したりしていく予定だという。

最後に、五島氏と根岸氏にcoemoの今後の目標を聞いた。

「社会面においては、育児の新しい形としてテクノロジーが活用されたらいいなと思います。育児をしているすべての人が『楽しんで育児ができる』。そんな世の中をエンターテイメントの力でサポートしていきたいです」(五島氏)

「ビジネス面においては、アプリケーションと連携して使用する玩具のマネタイズ化ができることを証明し、もっと玩具の可能性を広げていきたいです」(根岸氏)

実際にタカラトミーでは、「MUGENYOYO/ムゲンヨーヨー」というデジタルとフィジカルが融合した電動で回り続けるヨーヨーを、専用アプリで撮影することにより、ARエフェクトをつけた動画が撮影できる玩具も2022年5月に発売している。今後、coemoやMUGENYOYOのようなアプリと連携する玩具の開発にも注力していきたいという。

実在の人物の声とそっくりな合成音声で、自然な読み聞かせを行い、子育てをサポートする読み聞かせスピーカー「coemo」。育児において「楽」をするのではなく、子どもと一緒に「楽しむ」。筆者は今回の取材を通じて、coemoはそんな「新しい育児」の形の第一歩となる商品だと感じた。