コロナ禍を契機に、オンラインでのお問い合わせ需要の増加やオンライン上での消費者行動の活発化などを背景に、「自社(オウンド)メディア」に着手する企業が増えているという。その一方で、新たに自社メディアを始めるにあたり課題として、「参考にできる自社メディアの事例が見つからない」という声が多く上がっているという調査データもある(ニュートラルワークス調べ)。
今回は、そんな課題を抱える方にぜひ参考にしてもらいたいヤマト運輸初のエンタメサイト「クロネコみっけ」を紹介しよう。企画の概要や経緯、公開に至るまでの苦労など企画を担当しているコーポレートコミュニケーション部の上本みほ氏、柴香澄氏、服部亮太氏、渡部学人氏の4名に聞いた。
テーマは会社のシンボルでもある「クロネコ」
「クロネコみっけ」は、お客さまとのデジタル上での接点をより強化することを目的に、新たなコミュニケーション手段の1つとしてヤマト運輸初のエンタメサイトとして6月23日に公開されたものだ。
ヤマト運輸のロゴマークにもなっている「クロネコ」をテーマとしており、サイト内では、ネコの暮らしをのぞき見られる「にゃん記事」やネコをテーマにしたエンタメ動画「にゃマト動画」、ネコの好奇心をくすぐるために開発した「ネコ専用にゃんゲーム」などが掲載されている。 加えて、利用者参加型企画として、未来のアイデア募集企画「みんなの空想ヤマト」も行われている。
「この『クロネコみっけ』は、20代の若年層をメインターゲットとして開発したもので、コンセプトは、スキマ時間にネコを通じて『楽しみ』や『癒し』を届けることです」(上本氏)
自社メディアを立ち上げた理由は?
今回、自社メディアの立ち上げに際し、20代をメインターゲットとして設定した理由には「デジタルデバイスの普及」が関わっているという。
ヤマト運輸は、テレビCMを中心に宣伝活動を行っているが、スマートフォンなどのデジタルデバイスの普及が進み、特に若年層ではほぼ100%の方が利用している。そのため、若者層を中心としたお客さまとのデジタル上での接点を強化することを目的に、同社のことをより身近に知ってもらえるような方法を模索していた。
「クロネコみっけ」は、スマホ1台あれば通勤や通学などのスキマ時間にも手軽に楽しめ、内容も可愛らしく癒されるものとなっているため、日々の日課として読むことができる。
実際に筆者もクロネコみっけのサイトを拝見したが、サイト内に登場するネコたちはそれぞれに魅力があり、時間を忘れて眺めてしまった。普段は犬派だという人であっても、毎日このサイトを見ていたらネコの魅力が存分に伝わってくることだろう。
しかし、テレビCM以外にもさまざまな方法がある中で何故、自社メディアを選んだのだろうか?
「ヤマト運輸では、約2年前から20代をターゲットにアーティストやタレントとのタイアップ企画を何度か行っています。しかし、短期間の企画が多く、長期間にわたって、多くのお客さまに愛してもらえるためにはどうしたら良いかを考えたとき、自社メディアが最適だという結論に至りました」(柴氏)
実証実験は「ネコカフェ」で!?
先ほども挙げたように記事や動画、ゲームといったコンテンツが掲載されているクロネコみっけ。 これらのコンテンツはどのように作成されているのだろうか?
「例えば、『にゃん記事』では、若年層に人気のあるタレントやインフルエンサーの方が実際に飼っているネコなどをメインに取り上げています。話題にあがるトピックスも年代によって異なるので、メンバー内で意見を出しつつ内容を決めています」(服部氏)
「『ネコ専用にゃんゲーム』は、アイテム編と乗り物編の2つを公開しています。これらはネコカフェに伺い、実際のネコたちの様子を参考にしながら試行錯誤しました。動画のスピード、動き方や色など、ちょっとした違いでネコたちの反応が異なるため、検証を繰り返し、もっともネコたちが夢中になったものを採用しています」(渡部氏)
ネコ専用にゃんゲームの検証について説明する渡部氏 コンテンツの1つをとっても「ネコ愛」があふれているクロネコみっけ。 企画を担当している4名は、大のネコ好きなのだろうと思っていたが、実は中には「犬派」のメンバーもいるという。 「実を言うと、チーム内には犬派や猫を飼っているなどさまざまなメンバーがいます。だからこそ、たくさんの視点からアイデアを出すことができたと思います。ネコ好きだからこそ見えるネコの良さ、普段ネコに触れていないからこそ見えるネコの良さがあります。普段あまりネコと触れ合っていない読者の皆さまにも、ぜひ『クロネコみっけ』を訪れていただきたいです」(柴氏)
目指すは「送る・受け取る」以外でヤマト運輸に興味をもってもらうこと
誕生してまだ日が浅いクロネコみっけ。 今後は読者からの反応を伺いながら、コンテンツを拡充していく方針だという。
「特に毎月25日(ネコの日)には、Twitterでアンケートを行い、コンテンツの感想や今後の要望などを募集しています。お客さまの生の声を聞きながら、どんなコンテンツが望まれているかをしっかりと見極めてきたいです」(上本氏)
柴氏に今後の目標を聞いた。
「クロネコみっけを通じて、会社のファンを増やしていきたいです。たくさんある運送会社の1つとしてではなく『ヤマト運輸』を好きになってもらうことが目標です。最終的には、元々目指していた『送る・受け取る以外でヤマト運輸に興味を持ってもらう』ことを叶えたいです」(柴氏)
宅配便のリーディングカンパニーとして運送業界を牽引するヤマト運輸。 ネコマークが入ったトラックを街中で見かける人も少なくないだろう。
元々、ヤマト運輸のシンボルとして「クロネコ」が使用され始めたのは、母親が優しく子猫をくわえて運んでいるアメリカの運送会社アライド・ヴァン・ラインズ社の「親子猫マーク」を見て、「運送業社の心構えを適切に表現している」と強く共感したのがきっかけだったという。またネコマークのデザインは、当時の広報担当者のお子さんがクレヨンで書いた親子ネコがヒントとなった。
コロナ禍になりオンラインストアの需要が高まり、運送会社の運ぶものが多様化した現代。そんな世の中で、モノだけではなく「癒し」も届けたいというヤマト運輸の気持ちが具現化されているのが、この「クロネコみっけ」なのかもしれない。