ワイドギャップCIS系太陽電池では、特に開放電圧と曲線因子の改善が重要課題だったが、同手法により、これらのパラメータを改善することに成功したとする。特に、ワイドギャップCIS系太陽電池の曲線因子は、これまで最高でも70%程度の報告に留まっていたが、今回、同手法を用いて74.6%まで向上させることに成功したとする。

また、銅が欠乏した層を適度な厚さで表面に形成することにより、CuGaSe2太陽電池の開放電圧が改善できることも見出された。銅欠乏層の制御により、CuGaSe2太陽電池のインディペンデントリーサーティファイドエフィシェンシーとしては世界最高クラスとなる11.05%の変換効率を、高い開放電圧(0.960V)と曲線因子(72.4%)を両立しながら得ることが達成されたとする。

  • CIS系薄膜材料の太陽電池および水分解水素生成への応用

    CIS系薄膜材料の太陽電池および水分解水素生成への応用 (出所:産総研プレスリリースPDF)

さらに、CuGaSe2の製膜終了直前にアルカリ金属ハロゲン化物を供給する手法で作製した光電気化学セルの光電極を用いることで、8%を超す太陽エネルギー変換効率(HC-STH効率)が得られたともしている。

  • 太陽電池パラメータおよび電流-電圧曲線

    CuGaSe2製膜終了直前アルカリ添加によって改善した太陽電池パラメータおよび電流-電圧曲線(反射防止膜なし、25℃、1sun(AM 1.5G)標準条件で測定) (出所:産総研プレスリリースPDF)

加えて、薄膜表面の銅欠乏層の厚さ制御による界面改質を行った光電極を用いることで、0.9Vを超える大きなオンセットポテンシャルも得られたとする。これまで、ワイドギャップCIS系材料CuGaSe2薄膜を光電極とした水分解水素生成において、HC-STH効率は1%程度にとどまる報告が通例であり、8%を超える数値は世界最高水準となると研究チームでは説明している。

  • 水分解水素生成性能

    アルカリ添加およびCu欠乏層制御による界面改質CuGaSe2光電極の水分解水素生成性能。HC-STH効率は8%を上回り、0.9Vを上回るオンセットポテンシャルも得られたとする。右上図はHC-STH効率導出に用いた断続光下測定電流密度-ポテンシャルプロット (出所:産総研プレスリリースPDF)

なお、今後は界面改質だけでなく、ワイドギャップCIS系薄膜のバルク特性改善にも取り組み、太陽電池と光電気化学セルそれぞれにおいて、さらなる性能向上を図るとしている。また、タンデム型太陽電池用途としては、さらなる開放電圧や曲線因子の向上による高効率化を、光電気化学セルでは、BiVO4などの光電極(アノード)との組み合わせによる外部電源供給を必要としない水分解水素生成デバイスのほか、CO2還元デバイスなどへの応用も目指すとしている。