東京薬科大学は、多発性硬化症などの主要原因とされる脳内炎症を、「みかんの皮」に多量に含まれるフラボノイド「ヘスペリジン」で抑制できることを発見したと発表した。
同成果は、東薬大 生命科学部 分子神経科学研究室の山内淳司教授らの研究チームによるもの。詳細は、神経学と神経科学に関する全般を扱う学術誌「Neurology International」に掲載された。
神経細胞から伸びた軸索の周囲を覆う「ミエリン」は、脳のグリア細胞の一種である「オリゴデンドロサイト」に発生するグリア系幹細胞である「オリゴデンドログリア前駆細胞」が分化してできた構造体であり、ミエリンが軸索を覆うことで、神経の伝導速度を向上させるほか、保護する役割もあることがわかっている。
しかし、ミエリンが近年、増加傾向にある多発性硬化症やその類似疾患などにおいて自己抗体によって破壊されると、神経突起がむき出しになり、神経伝達速度機能が著しく低下し、多発的にミエリンが壊れ、結果として脳内に炎症が広がるといったことが考えられるようになってきたという。
そこで研究チームは今回、試験管内モデルを用いて、ヘスペリジンによる炎症反応抑制について調べることにしたという。
その結果、試験管内においては、脳内炎症の主原因である炎症性サイトカインの「腫瘍壊死因子α」(TNFα)や「インターロイキン6」(IL-6)が、オリゴデンドログリア前駆細胞の分化・成熟を抑制することが判明したとする。これは、成熟評価マーカーのタンパク質の発現減少でも確認できたとのことで、これらの結果は、試験管内で脳内炎症の部分的な再構成に成功したことを意味するという。
また、ヘスペリジン(より正確には、その体内代謝産物である「ヘスペリチン」)を添加したところ、炎症性サイトカインの負の効果が抑制され、オリゴデンドログリア前駆細胞の分化・成熟が回復することも確認されたという。さらに、これらの効果におけるシグナル伝達経路の根底には、セリン・スレオニンのリン酸化酵素である「Aktキナーゼ」があることも明らかにしたとのこのことで、今回の研究成果により、脳内炎症の抑制に関する新たな治療基盤が提供できている。
なお、研究チームは今後、生命科学的(理学的)な展望としては、ヘスペリジンがどのようなメカニズムでオリゴデンドログリア前駆細胞の分化、成熟を促進するのかを明らかにすべきとしている。また、基礎医学的な展望としては、ヘスペリジンが疾患モデルマウスに効果があるかどうかを確認すべきとした。効果が見られた場合は、さまざまな脳炎モデルに対して効果があるかを検討する必要があるとした。さらに、みかんの皮には多くの天然物成分があるため、それらがどのような効用があるかどうかを調べる必要もあるとしている。