以前は地球温暖化という言葉をよく耳にしていたが、最近は気候変動の方をよく耳にするようになった今日このごろ。
知っての通り、森林は光合成により二酸化炭素を吸収し酸素を発生させる、私たちにとって無くてはならない大切な存在である。
今回はそんな森林に関連した研究を紹介する。気候変動により森林が拡大する地域、縮小する地域を高解像度で推定できる気候ストレスの影響を地球規模で評価するモデルを開発した、森林総合研究所(森林総研)、国立環境研究所らの研究だ。研究の詳細は「Science of the Total Environment誌」に掲載されている。
森林は光合成により二酸化炭素を吸収することで気候変動の緩和に貢献している。しかし、このままのスピードで気候変動が進行し、気温や降水量などの気候条件が大きく変化した場合には、森林分布そのものが大きく変化する可能性がある。
現在の森林の二酸化炭素吸収能力が、今後も維持されるかを知るためには、将来どの地域でどの程度森林の分布が変化するかを地球規模で定量的に予測する必要がある。しかし、気候ストレスに対する樹木の応答についての知見は、特定の種や分類群に限られていたため、気候の変化に対して森林分布が地球規模でどのように応答するかは予測困難であった。
そこで同研究では、植物の光合成活性に影響を与える3つの気候因子(乾燥・日射・気温)を統合し、植物にとっての気候ストレスの指数化(以下、気候ストレス指数)を試みた。そこから、気候変動によってこの指数がどのように変化するかを地球規模かつ高解像度(赤道付近で約1km2の格子ごと)で推定した。
さらに、現在の気候ストレス指数と森林分布との関係をみることで、気候変動による地球規模の森林分布の変化を高解像度で推定した。
まず、現在の気象データを用いて乾燥度※1、日射量・気温を組み合わせた7つの気候ストレス指数を地球規模で算出した。これら7つのストレス指数と衛星画像をベースにした現在の地球の土地被覆(森林、低木・草地、裸地、氷・雪)との関係を機械学習によってモデル化し、現在における森林の成立や欠落に強く関係する気候ストレス指数を示した。
さらに、構築したモデルに、全球気候モデルによって予測された将来気候下の気候ストレス指数を当てはめ、将来の森林分布の変化を高解像度で推定した。
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同研究で推定した気候ストレス指数。黒塗りの四角は植物の光合成活性に影響を与える3つの気候因子で、白抜きの四角は気候因子間の相互作用を示している。赤字は、同研究で開発した7つの気候ストレス指数である。これら7つの指数値を地球規模で算出し、地球の土地被覆との関連をモデル化した。初夏は、最も日射量の多い時期を示している(出典:森林総研プレスリリース)
研究の結果、「年間を通じた乾燥」と「初夏(日射量が多い時期)の低温」の気候ストレスが、地球規模での森林の分布限界に関連していることが分かった。
北半球の高緯度地域では、日射量が多い時期の平均気温が約7.2℃を下回ったあたりから、森林の成立が難しくなる傾向が示された。また、中緯度の乾燥地域周辺では、乾燥度が0.45を下回ったあたりから、森林の成立が難しくなる傾向であった。さらに、気候変動によって森林が拡⼤しやすい地域は、縮⼩しやすい地域より⾯積的には⼤きいことが予測されたのである。また、これら両地域は地理的に離れていることも分かった。
気候変動によって森林が拡大しやすい地域は、縮小しやすい地域より面積的には大きいことが予測され、また、両地域は地理的に離れていることが示された。
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気候変動によって森林が拡大しやすい地域と縮小しやすい地域。赤色と桃色は、現在は森林の分布には適していない気候条件であるが、将来は森林の分布に適した気候条件になる地域を示している。RCP8.5とRCP2.6は、将来気候を予測するために想定されたシナリオである。RCP8.5は、特段の気候変動対策を実施しなかった場合を想定した将来気候シナリオで、21世紀末における現在(1986~2005年)からの気温上昇が2.6~4.8℃(平均3.7℃)になると予測されている。RCP2.6は、気候変動対策を進めて産業革命以降の気温上昇を2℃以内に抑えた場合を想定した将来気候シナリオで、21世紀末における現在(1986~2005年)からの気温上昇が0.3℃~1.7℃(平均1.0℃)になると予測されている(出典:森林総研)
研究グループは、同研究の成果は世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという世界的な目標に対する森林の貢献度を評価するうえで重要な知見となるとした。
また気候変動は、なにも森林だけに影響するわけではない。分野は異なるが、もちろん海洋などにも十分影響を及ぼす。すなわち、気候変動に伴う海水温上昇などの海洋環境変化は、日本の周辺海域の海洋生態や水産業に対して大きな影響を与えることが懸念されているのだ。
下図を参考にしてみれば分かるだろう。
今回は、森林と気候変動に関係する内容であったが、海洋と気候変動の関係性についても、少しは知見をもっておかなければならない。地球という星自体、壮大なスケールの水循環構造をもった生命体であり、そのことによって私達は種を、技術を繁栄させることに成功したのである。
この記事をきっかけに、気候変動と地球環境の関係性について興味を持っていただければ幸いである。
文中注釈
※1:乾燥度の指標には、降水量に対する可能蒸発散量の比(乾燥度指数)を用いた。可能蒸発散量とは、十分に水が供給されたと仮定したときの地表面からの蒸発散量。降水量と可能蒸発散量の比である乾燥度指数は、実際に雨として供給された水分量のうち、蒸発散によって失われる水分量を比として指数化したものである。国連環境計画(UNEP)では乾燥度指数を用いて乾燥地域を4つに区分(極乾燥地域、乾燥地域、半乾燥地域、乾燥半湿潤地域)している。