日本の半導体ベンチャー「Mitate Zepto Technica(MZT)」は7月15日、Monozukuri Ventures、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)および個人投資家3名を引き受け手としたJ-KISS型新株予約権により1.5億円の資金調達を2022年6月末に実施したことを発表した。
同社は高速がんゲノム診断を実現することを目的としたベンチャーであり、その実現手法として専用アクセラレータ用ASICを自社で開発し、その高いパフォーマンスをもって、自社開発の最適化アルゴリズム処理を行うことで高速・高性能化を図ることを掲げている。
今回の資金調達はこうしたゲノム解析用ASICの論理設計と物理設計の開発、および実際のASICを搭載したハードウェアアクセラレータの開発加速を目的に実施されたものだという。同社の目標は、次世代DNAシーケンサにて抽出されたゲノムデータ(処理時間約5分)を、実際に解析するデータ処理の時間を従来の50分から1/10の5分へと短縮することを可能とするアクセラレータを開発し、低価格で市場に提供することで、既存のDNAシーケンサやワークステーションの高性能化を実現するとしている。
今回、投資を決定した背景についてMonozukuri Venturesでは、「日米で多くの半導体スタートアップを見てきたが、ここまで挑戦的な面白い話はなかなかなく、かつ新市場を切り開けるというところに魅力を感じた。また、エンジニアとマネジメントのチームバランスの良さも評価対象となった。資金調達に苦労されていたので、応援したいという思いもあり、技術を見ることができる独立系ファンドとして、自社の歴史の中でも最大級の投資を行うことを決定した」と、MZTの技術力と、新たな市場が拓けることに対する期待があることを強調する。
また、京都iCAPも「多くのバイオ系ベンチャーを見てきて、ゲノム解析におけるデータ処理がボトルネックとなっていることを認識してきた。今回の投資は、MZTという組織や技術力を踏まえ評価を行い、Monozukuri Venturesと同じレベル感で出資を行うことを決めた」と、その高い技術力と、市場開拓に対する期待を語っている。 MZTの代表取締役社長である原島圭介氏は、今回の資金調達を踏まえ、2023年第4四半期までに実際のASICを開発させ、TSMCの28nmプロセスをベースにシャトルでテストチップを製造する予定としているが、性能的には40nmプロセスでも達成できる可能性もあり、RTLからGDSへと移るタイミングで最終決定を行う計画であると説明している。
また、実際にASICを搭載したアクセラレータを発売する時期については2024年第2四半期を目指しているとしており、2023年第4四半期までにプレシリーズAの資金調達を実施。プロトタイプ開発に、調達した資金を充て、開発のさらなる加速を狙うとしている。Monozukuri Venturesと京都iCAPも、連携協定を締結しており、補完的に動ける仕組みができており、共同歩調で資金面での支援を行っていくとしており、そうした次のラウンドにおいてもMZTを支えていく意向を示している。
原島氏は、「新型コロナの世界的な感染拡大により、ゲノムを活用するベンチャーが次々と立ち上がってきており、(アクセラレータを活用する)ユーザーのすそ野が広がってきた。そうした意味では、拡大する市場に向けて自社の製品を供給できることはプラス。半導体不足といった問題が2021年に生じたが、2024年のアクセラレータの発売ごろには28nmプロセスの生産ラインには空きがでていると見ている。もし、半導体不足が続いていたとしても、その条件はどこのメーカーの半導体にも当てはまるため、大きな問題にならない。これからが本当の闘い」と、新型コロナが奇しくもゲノム医療の市場拡大につながったことを強調。全世界80億人ともされるヒトの遺伝子は実に多様であり、まだまだ未知なことも多い。ゲノム診断が高速にできるようになれば、これまで個人差と言われてきた、疾患のかかりやすさの違いなども、遺伝子レベルで、なぜか? が分かるようになってくる可能性もある。そうした意味でも、同社の挑戦は、原島氏が述べたように、まさにこれからが本番と言えるだろう。