具体的には、ひまわり8号の中間赤外画像が実際に月の研究に使用できるのかどうか、ほかの観測データとの比較を実施。中間赤外画像からは、月面の温度を測定することが可能だが、温度は観測波長にも依存するため、ほかの波長とでは正確な比較ができないという課題があった。しかし、ひまわり8号のバンド11は、NASAの月周回探査衛星ルナ・リコネサンス・オービターの赤外放射計ディバイナーとほぼ同じ波長であったことから、両機器による月面温度の比較が行われた結果、両者がよく一致し、ひまわり8号が月温度観測に十分有用であることが確認されたとする。

また、大気のない天体では一般的に、ピクセル内にさまざまな温度の部分が混在することで、表面温度が波長によって異なる現象が起きることがある。これは天体表面の地質・地形が原因と考えられており、バンドごとに異なる温度が計測されてしまうという課題があったことから、今回の研究ではそうした現象の数値計算が行われ、ひまわり8号での観測データとの比較を実施。その結果、数値計算がひまわり8号の観測値と一致するのは、月全体の表面の凹凸がアポロ着陸地点で実際に観測された凹凸と同程度である場合であることが判明し、ひまわり8号の中間赤外画像が、月表面の細かな凹凸の推定にも使用できることが示されたともする。

  • ,2019年6月27日10時40分(UTC)に撮影された月の表面温度と地質的特徴

    2019年6月27日10時40分(UTC)に撮影された月の表面温度と地質的特徴 (C)国立天文台/RISE月惑星探査プロジェクト (出所:RISE月惑星探査プロジェクトWebサイト)

さらに、ティコクレーターのような比較的若いクレーターは夜でも周囲より高温であり、月平均よりも10倍以上多い岩石を保持していることが推定されたともしている。これは若いクレーターにおいて、微小隕石が衝突することで岩が砂へと破砕されるプロセスが十分に作用しきっていないためだと考えられると研究チームでは説明する。

なお、研究チームによると、ひまわり8号の中間赤外画像は月だけでなく、水星、金星、火星、木星といったほかの太陽系天体も撮影されており、今後の惑星探査において赤外放射計の機器校正などにも利用できる可能性があるという。また、ひまわり8号のバンド8は水蒸気観測用バンドであるため、今後の人類の宇宙進出において重要な、月の水分布に関する推定にも有用である可能性があるともしている。

このほか、現状、月の昼面はひまわり8号の観測可能温度よりも高温であるため、月表面の凹凸や岩石量が大きな影響を与える朝・夕・夜面のみの観測にとどまっているものの、将来的に昼面の観測に成功すれば、これらの不確定性を除去できるようになるため、今後の惑星科学において、ブレイクスルーをもたらす宇宙望遠鏡となる可能性があると研究チームではコメントしている。