メタバースは1992年のSF小説『スノウ・クラッシュ』で描かれたような、私たちの現実と並行して走る仮想世界であり、人々はデジタルアバターを使って互いに交流できます。

メタバースは物理世界と相互に作用した単なるデジタル空間などではなく、メタバース自体が次世代のインターネットになりえます。私たちがすでに獲得しているデジタル・インテリジェンスをさらに便利に活用して、これまでとは異なる角度から物事の本質を理解する機会がメタバースにはあるのです。ゆくゆくは現実世界の課題解決にも貢献し、より環境に優しく、技術的に進歩した世界を築くことにつながるはずです。

建設業や製造業に設計とオペレーションの合理化をもたらす

メタバースは、先進的な未来の実現に向けて発展する都市においても関連性が高い技術です。インダストリー4.0(第4次産業革命)が提唱され、クラウドやIoT技術の利用が本格化しています。この流れを受けて、例えば建設業でメタバースがさらに身近になると、現実世界で多額の先行投資をする前に、デジタル空間で理想的な都市の姿を再現したり、予定している建造物のテストを行ったりできます。

また、デジタルツインの都市開発を支えるリアルタイムなインテリジェンス主導型のシミュレーションは、現実世界で持続可能な設計を行う助けになります。例えば、建築家はまず仮想空間で建物の構造を捉え、その上で自然光を最大限に取り込める窓と壁の完璧な比率を発見できるようになります。長期的な視点で材料の耐久性や持続可能性を予測することや、自然環境を保全し緑地を増やす新たな方法を計画することにもつながるでしょう。

スマート製造にも同様の分析手法を適用できるはずです。実際の生産現場によく似た環境をARやVR、ホログラフィック技術を使って仮想空間内に再現する場面をイメージしてください。工場内のコネクテッドセンサーやIoTデバイスと組み合わせて、メタバース上で実際の生産ラインをシミュレーションできます。試運転や作業員の訓練では一般的に高いコストが発生しますが、バーチャル空間で設備の操作を訓練することで、異なる生産設定に起因する人為的ミスなどを軽減できるようになります。

自動車メーカーでは、資本集約型の自動車生産に踏み切る前に、3次元空間を構築して、費用対効果の高い製造プロセスの設計や改善ができるようになると期待されます。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため渡航制限が課された際には、海外にいる従業員が、実機を扱う前にリモートでバーチャルトレーニングを受けて操作に慣れていたため、渡航制限の解除後すぐに現場で実務に取り組めたような例もあります。

このように、メタバースの活用によって、物理的な時間や資源を無駄にすることなく、集積したインテリジェンスを現実世界に適用できます。さらにはAIアルゴリズムを改善し、工場や作業場、生産ラインのアップグレードやトランスフォーメーションをこれまで以上に支援できるようになります。

  • メタバース空間で製造業を効率化できるはず 画像提供:アリババクラウド

    メタバース空間で製造業を効率化できるはず 画像提供:アリババクラウド

没入感のある包括的な生活者体験の創造

小売事業者はクラウドコンピューティングやAI、AR・VR技術を駆使したデジタル空間とバーチャルキャラクターを活用して、生活者を惹きつけたり、購買トレンドを把握したりできるようになります。

そのため、Z世代の生活者との関わりを模索する現在の小売事業者にとって、メタバースで存在感を高めていくことは不可欠だと考えています。テクノロジーに慣れ親しむ若い世代はオンラインでの体験にさまざまな期待を抱いているので、彼らのニーズを満たすために小売業者でも最新のテクノロジーを積極的に採用していくべきです。

アリババクラウドはJP GAMESと提携し、メタバース空間構築ソリューションを開発しています。没入感のあるオンラインショッピングスペースや、仮想空間での音楽コンサートおよび展示会、3Dの物件見学ツアー、バーチャルフィギュアが登場する壮大なロールプレイングイベントなど、サービス展開の仕方はさまざまです。これらを小売事業者向けにカスタマイズして提供し、Z世代の関心を引きつける取り組みを支援しています。

生活者の視点では、メタバースでは物理的な移動を伴わずにお気に入りの目的地を訪れ、これまでとは違った没入感のある消費体験が可能になります。パンデミック後の世界に不安を抱えている、もしくは経済的にも時間的にも旅行が容易でない方々にも価値を提供する機会となるでしょう。

  • JP GAMESのメタバース空間のイメージ 画像提供:JP GAMES

    JP GAMESのメタバース空間のイメージ 画像提供:JP GAMES

グリーンテクノロジーで未来のメタバースを強化

メタバース開発を多面的に支える技術レイヤーを機能させるには、非常に高いレベルの技術発展が求められます。最初のレイヤーでは、物理環境の幾何学モデルを構築し、それをさまざまな種類のデバイスに表示して没入感のある世界を実現するために、堅牢なAI、クラウド、IoT技術が必要です。

例えば、3D・4Dデータを解析・翻訳して現実世界を模したデジタルツインを構築するクラウドネイティブなデータベースエンジン「GanosBase」は、数千万単位の膨大な幾何学的空間データを高速で解析し、計算結果をインタラクティブな3Dマップ上にリアルタイム表示するコードを作成できます。

このほかにも、リアルタイムでデバイスに視覚情報をストリーミングするリモートレンダリングやデータ分析などの技術は、現実同様の世界をバーチャルで構築する上で重要な鍵となります。

仮想世界と現実世界の境界を打破するためには、リアルで高精度な3Dマップを構築する技術と、仮想空間でのカスタマーサービスやナビゲーションといった、カスタマイズされた体験を提供できるAR・VR技術が必要です。

メタバース開発には心が弾みますが、一方で、エネルギーの使用と生産に過大な需要をもたらすことは明らかです。サステナビリティ(持続可能性)を重視する現代では、こうした課題への対処も不可欠です。

その対処法の一つとして、環境への影響をできるだけ少なくするように設計、構築、運用されたグリーンデータセンターの利用があります。このようなデータセンターには、液体冷却などの環境に配慮したテクノロジーが組み込まれています。強力なアルゴリズムを活用してエネルギー消費を抑えながらコンピューティングパワーを高めることで、電力使用量を節約しながら、監視やメンテナンスなどのエネルギー集約型タスクの自動化も実現しています。

メタバースが浸透したデジタル世界には胸が高鳴ります。だからといって、私たちが存在する物理的な世界を軽視するつもりはなく、むしろ今まで以上に重んじる必要があります。メタバースに限らず、私たちの日常生活に必要なテクノロジーやエネルギーへの依存度が高まっている今、私たちは現在も将来も、持続可能で包括的かつ責任ある行動を呼びかけ、取り組んでいかなくてはなりません。