分子科学研究所(分子研)と科学技術振興機構(JST)は6月23日、トポロジカルデータ解析を活用することで、アモルファス構造を持つ物質の熱伝導率を予測する技術を開発したことを発表した。
同成果は、分子研の南谷英美准教授、東京大学大学院 工学系研究科の志賀拓麿講師(現・産業技術総合研究所 主任研究員)、青山学院大学の柏木誠助教、岡山大学の大林一平教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する化学物理学と物理化学を扱う学術誌「The Journal of Chemical Physics」に掲載された。
アモルファス構造を持つ物質はガラス以外にも太陽電池などをはじめに幅広く応用されているが、複雑な構造であるがゆえに未解決の問題も多く残している材料だという。
アモルファスは結晶とは異なり、決まった構造が繰り返される長距離秩序が存在しない。しかし完全にランダムな構造というわけでもなく、複数の原子間の相互作用がもたらすナノメートル程度のスケールでの中距離秩序があると考えられている。
この規則性とランダムの中間に位置する構造が、アモルファスの物理的性質とどのように関係しているのかは、固体物理における長年の謎だという。その謎を解く鍵として、アモルファスの構造の特徴を中距離秩序も含めて抽出し、物性シミュレーションと結びつけることが求められてきたという。そこで研究チームは今回、複雑な構造と物理的性質の関係の典型例としてアモルファスシリコンでの熱伝導率に着目することにしたという。
熱伝導率は、デバイスの信頼性や性能に直結する重要な物理量であり、アモルファスシリコンは結晶シリコンに比べて低い熱伝導率を有している。しかし、どのような構造が熱伝導率を決めているのかという点と、中距離秩序との関係性は不明だったとする。
そこで今回は、トポロジカルデータ解析手法の1つである「パーシステントホモロジー」が複雑な構造の持つマルチスケールな特徴を抽出できることに着目し、それを機械学習・物性シミュレーションと結びつけることに取り組むことにしたという。