今回の研究では、まずRIBFの加速器群を用いて、酸素-18(18O)ビームを光速の約60%に相当する核子当たり250MeVまで加速し、それをベリリウム製の生成標的に照射することで、陽子数2・中性子数6のヘリウム8(8He)の2次ビームを生成。そして、超伝導RIビーム生成分離装置BigRIPSを用いて8He核ビームを分離・輸送し、SAMURAIスペクトロメータの標的位置に配置された二次標的である液体水素への照射が行われた。

その結果、8He核と水素標的中の陽子(p)が衝突し、8He核から4He核だけが叩き出される現象が観測されたほか、8He核内に残留する4個の中性子は、陽子と4He核の衝突にはほとんど影響されずにシリコントラッカー検出器を通過し、かつSAMURAIの磁場でも偏向を受けることなく直進し、最前方角度に設置された中性子検出器群のNEBULAおよびNeuLANDにより部分的に検出された。ただし、この中性子の情報は今回の結果には直接用いられておらず、将来的により高精度の実験を行うための布石としたという。

  • テトラ中性子核を生成する手法のイメージ

    テトラ中性子核を生成する手法のイメージ (出所:東工大プレスリリースPDF)

また今回は、まったく同じ実験セットアップで、2中性子系が残留する6He核ビームでの測定も行われており、2中性子系のエネルギー分布も計測された。同エネルギー分布は、過去の実験データや中性子-中性子間力を用いた理論予言と形状が非常によく一致しており、今回の実験手法の信頼性の高さが示されているとする。

  • 測定で得られた4中性子系のエネルギー分布

    測定で得られた4中性子系のエネルギー分布。赤線の狭い幅のピーク(ピーク位置2.37MeV、幅1.75MeV)が、テトラ中性子核と同定された共鳴状態に対応。加えて、青線で2中性子ペアが相対運動量を持っているものや、4中性子が相対運動量を持っているものなどの重ね合わせと考えられる連続状態が示されている (出所:東工大プレスリリースPDF)

今回の成果は、60年来の謎だった「テトラ中性子核」の存在について、高い統計的有意性を持った情報を与えることとなったものの、最先端の原子核物理学理論をもってしても、このテトラ中性子核の状態を十分に説明することはできないという。そのため、今回の成果は理論と、より基本的な核力研究に大きな波紋を投じることになるだろうとしている。

特に、ここ20年余りその重要性が指摘されている三体核力の研究を大きく前進させると考えられるという。3個の中性子間に働く三体核力は、多数の中性子が相互作用し合って形成されている中性子星の構造形成に不可欠だが、これまで実験的な情報がほとんどなかった。今回の成果により、今後、中性子間の三体核力の研究、ひいては中性子星の内部構造や形成過程の研究が発展することが期待されるとしている。

RIBFでは、今回の研究とは異なる手法で、4中性子系やより多くの中性子系、また非束縛状態の中性子過剰水素やヘリウム核などの核分光実験を継続して実施中としており、今後は、たとえば4中性子系が一度に崩壊して4個の中性子になるのか、あるいは2中性子系が2個に崩壊し、その後4個の中性子になるのかなど、崩壊過程を調べる予定としている。

また、今回用いた手法をより重い中性子過剰核に適用することで、多くの少数核子系についても分光学的研究が推進されることが期待できるとしている。