少子高齢化により労働力不足が課題になる中、従来は人が行っていた作業を代替するために、ロボットを導入する企業が増えている。導入するロボットはすべての要素を1から開発することも可能だが、開発を効率化できるROSの活用が進んでいる。

この記事では、ROSの概要やROSを活用するメリット、活用事例を紹介する。ロボットに携わる場合には、ぜひ一度確認してほしい。

ROS(Robot Operating System)とは?

ROSは、ロボット用のソフトウェアプラットフォームで、2010年に公開された。オープンソースとして公開されているため、世界中の技術者がROSの開発に貢献している。

ROSは、通信、ツール、機能、エコシステムから成り立っている。それぞれの構成要素について、以下表で簡単に解説する。

  • ROSの構成要素

    ROSの構成要素

ROSとROS2

ROSは、単一のロボットでリアルタイム処理は不要、研究用のアプリケーションとして開発された。

しかし、ROSの活用が製造業・農業・商業など幅広い分野に広がり、複数ロボットの同時制御やリアルタイム処理への対応、また不安定なネットワークへの対応などが、ユーザーからの強い要望として挙げられるようになった。

そこで、これらの要望に応えるために、既存のユーザーには影響を与えない形で「ROS2」の開発が開始された。ROS2は2017年にリリースされ、現在も開発が進められている。

ROS2では、スクラッチ開発に対応することで、商用として使えるレベルの品質を確保し、要望の強かったリアルタイム制御や複数台のロボットを同時に制御することも可能になっている。

新たにROSを用いたロボットの開発を進める場合には、用途によって「ROSとROS2のどちらを利用すべきか」は変わってくる。多くの場合には機能拡張性や商用利用可能な品質の確保という観点で、ROS2の採用が望ましいと考えられる。

ロボット開発にROSを利用するメリット

ロボットを新規で開発する際にROSが効果的な理由を3つ紹介する。

オープンソースで提供されている豊富なアプリケーション

ROSでは、オープンソースでさまざまなアプリケーションが提供されており、自社で1から開発するよりも、効果的に機能追加を行うことが可能だ。

複数の機能がパッケージ化された汎用的なアプリケーションを導入すれば、環境に合わせた一部のカスタマイズでロボットを開発ができるため、経験が浅くても対応できる可能性が高い。

多種多様なセンサを効率的に組み込める

ロボットは、多種多様なセンサから取得した情報に基づき動作を決める。特に近年開発されるロボットは、あらかじめ決められた通りに動作するのではなく、センサから取得した外部の情報に基づいて次の動作を決定する傾向が強くなっている。

外部環境やロボット動作を認識するために開発されたセンサは、そのほとんどがROSに対応している。ROSに対応したロボットを開発している場合には、センサとロボットのインタフェース調整に手間取ることはないだろう。

ROS以外のロボットとのインタフェース

すでに、ROSを利用していないロボットを導入している場合もあるだろう。ロボットメーカーやベンダーの中には、ROS非対応のロボットでもROSと通信できるようなモジュールを用意している。

これらを活用することで、ROSに準じたロボットと同様に扱うことができるため、新しいロボットをROSに基づいて導入するとしても、障害になりにくい。

ロボットに対するROSの活用事例

最後に、ROSを活用したロボットの開発事例を紹介する。いずれも、今後導入が進んでいく可能性が高い種類のロボットだ。

物流補助ロボット(Amazon)

世界的に需要が拡大しているEC(Electronic Commerce:電子商取引)の代表格であるAmazonでは、自社の物流拠点にROSを用いた物流補助ロボットを導入している。

大規模な物流倉庫では、ロボットを導入していない状況の場合、作業者の移動距離が増え、負担が大きい。そこで、自動搬送や自動棚ロボットが活用され、作業者は定位置での梱包作業に従事できる環境が整えられている。

協働ロボット(Rethink Robotics)

すでに廃業している企業だが、作業者と協働できる協働ロボット開発の先駆者であるRethink Roboticsは、協働ロボットの開発にROSを活用していた。

工場などで使われるロボットアームは、作業を教え込むティーチングが手間だったが、ダイレクトティーチング(作業者が操作した通りにロボットに覚え込ませる手法)に対応することで、ティーチング作業の負担を低減していた。

トマト収穫ロボット(パナソニック)

パナソニックは、ROSを採用し、画像認識技術を用いることで、トマトが収穫すべきタイミングかどうかを判別できるロボットを開発した。人口減少に伴い、農業分野では今後自動化が進み、同様のロボット開発が進むと考えられる。

一方で、農場は統一された規格に基づいているわけではなく、導入する農場に合わせてロボット側をカスタマイズする必要がある。そこで、拡張性が高くさまざまなセンサやアプリケーションが用意されているROSを利用すれば、開発をスムーズに進められる可能性が高い。

まとめ

ROSは、その拡張性と汎用性の高さ、また継続的な機能追加などにより、多くのロボットメーカーやベンダー、導入企業の注目を集め、その活用範囲を拡大し続けている。例えば、ロボットだけでなく自動運転やIoT、ドローン向けのソフトウェアとしても利用が進んでいる。

今後も、世界中の技術者により新たな機能の開発やより使いやすいアプリケーションの開発が進むと考えられるため、ロボットに携わる場合には注目しておきたい。